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By Gunnar Malmquist, Senior Principal Scientist, Cytiva
バイオ医薬品のプロセス開発がデータ・シミュレーション主導で行われる傾向はますます強まるにつれ(図1)、メカニスティックモデリングに対する関心も高まっています。このアプローチにより、クロマトグラフィーの挙動やin silicoでの実験をシミュレーションし、予測することができます。
メカニスティックモデリングは、プロセスの結果を改善し、プロセス開発を迅速化するためのアプローチであるスマートプロセス開発を構成する一要素です。メカニスティックモデリングは、DoEなどの多変量データ解析(MVDA)に基づく統計モデルとともに、包括的なQbDフレームワークの目標である時間を節約し、より堅牢なプロセスを実現する強力なツールとなります。
このアプローチは、より堅牢なプロセスの結果を得るための近道となり得ますが、決して一筋縄ではいきません。この記事では、クロマトグラフィーステップのプロセス開発にメカニスティックモデリングを使用する機会と課題について、現時点の状況を概説します。
図1. プロセス開発の進展:OFAT(One-Factor-At-A-Time)からDoE(Design of Experiment)を経て、HTPD(High-Throughput Process Development)、原料分析、QbD(Quality by Design)、そして現在のメカニスティックモデリングへと進化。
クロマトグラフィーのメカニスティックモデリングとは?
メカニスティックモデルでは、プロセス開発において必要な実験の回数を減らすためにコンピューター・シミュレーションを使用します。このシミュレーションは、クロマトグラフィーで発生することが知られている生理化学現象に基づいています。
メカニスティックモデリングは、クロマトグラフィー中に生じる物理化学的輸送および生理化学的相互作用を数学的に表すものです。たとえば、この方法では、分子が樹脂ビーズ間および樹脂ビーズ孔内でどのように移動するかを記述する微分方程式を使用します。また、吸着等温式を使用して、結合時に分子がリガンドを巡りどのように競合するかを定量化します。
この方法は必ずしも新しいものではありませんが、結果を改善しプロセス開発を迅速化する必要性から、バイオ医薬品業界でも学術研究から実用化へと移行しつつあります。コンピューターの処理能力が大きく向上し、ソフトウェアが改良されたことから、今日ではバイオ医薬品業界でもメカニスティックモデリングを利用して開発を行う機会が増えています。
ダウンストリームのプロセス開発でメカニスティックモデリングを使用する理由は?
メカニスティックモデリングは、HTPDやMVDAなどの他のプロセス開発手法を補完するものです。MVDAとは異なり、メカニスティックモデリングでは物理化学作用も考慮されており、モデルパラメーター値を解釈することで製造工程に対する理解を深めることができます。
プロセス開発にメカニスティックモデルを使用することで、少ない実験回数でプロセス全体に対する理解とプロセスに影響を及ぼし得るパラメーターに対する理解をともに深めることができます。そうすることで、より迅速で、より科学的、そして、より信頼性の高いプロセス開発が行えます。スケール効果を予測しモデル化する能力は、メカニスティックモデリングがMVDAに対する1つの利点です。メカニスティックモデリングのフレームワークには軽い外挿も含まれています。
考えられる用途には、イオン交換クロマトグラフィーのステップ溶出条件の予測、ラボ実験からプロセス開発へのクロマトグラフィーカラムのスケールアップ予測による技術移転の促進、製造時の偏差の原因説明などの用途が考えられます。
メカニスティックモデリングの可能性は?
前述のように、メカニスティックモデリングの利点は、プロセス開発の迅速化とプロセス改善を可能にすることです。モデルの校正に時間を費やすことで必要な実験回数を削減し、時間と試料やレジンなどのリソースの両方を節約できます。
この方法によりプロセスに対する理解が深まることで、より堅牢なプロセスが得られ、収率や処理量などで評価されるようなパフォーマンスの向上につながります。また、大量データのみではなく、スケーラブルな予測モデルを渡すことができるため、技術移転にも有効です。さらに、過去のデータを利用することで、既存のプロセスに対する理解をさらに深められるといったメリットもあります。
メカニスティックモデリングを医薬品開発業務にとって価値あるものにするには、いくつかの方法があります。現在、この手法は一般に後期開発段階で使用されていますが、初期工程開発段階で使用できる可能性が高まっています。初期のプロセス開発を加速することで、毒性試験およびヒト初回投与試験のスケジュールを速めることができます。
図2に、医薬品開発の各フェーズにおける機会の概要を示します。この方法は、プロセスの開発と特性解析、ならびに技術移転において特に有用です。
図2. 医薬品開発の各フェーズにおけるクロマトグラフィーのメカニスティックモデリングの利点
クロマトグラフィーのメカニスティックモデリングから何が得られるのか?
クロマトグラフィーでは、カラムの寸法、負荷率、流量、pH、導電率など、さまざまな条件下での溶出プロファイルのシミュレーションにメカニスティックモデリングを使用することができます。シミュレーションは、サンプルの主成分および微量成分の両方に対して実施できます。その結果をもとに分離を最適化できます。
図 3 ~ 6 は、Capto™ S ImpAct レジンでの mAb 溶出プロファイルのシミュレーションによるクロマトグラムの例です。図には、電荷変異体、凝集体およびフラグメント、宿主細胞タンパク質 (HCP)、および溶出タンパク質 A のプロファイルが示されています。
シミュレーションした溶出プロファイルを確認することで、プーリング基準候補を作成し、実験的検証の前にin silicoでテストし最適化できます。
図3. シミュレーションした電荷変異体の溶出プロファイルを示すクロマトグラムの例。
図4. シミュレーションした凝集体およびフラグメントの溶出プロファイルを示すクロマトグラムの例。UV曲線は別のY軸スケールで示す。
図5. シミュレーションしたHCPの溶出プロファイルを示すクロマトグラムの例。UV曲線は別のY軸スケールで示す。
図6. シミュレーションしたプロテインA(PrA)の浸出プロファイルを示すクロマトグラムの例。UV曲線は別のY軸スケールで示す。
メカニスティックモデリングの現在の課題は何か?
メカニスティックモデリングによってプロセス開発作業をスピードアップできる可能性は多くありますが、この手法を適用することは決して即効性のあるものではありません。この手法のメリットを享受するためには、時間、知識、人材に長期的な投資をする必要があります。また、現行のソフトウェアパッケージの改良版でも、学習曲線はかなり急なものとなっています。
言い換えれば、この手法を最大限に活用できるだけの知識を身につけるまでに時間がかかります。また、このような専門的な知識と技能は需要が高いことから、業務に適した人材を見出すことが困難な場合もあります。
特筆すべきもう1つの課題は、この手法によって、分析作業負の負荷が増加することです。シミュレーションを使用すると、プロセス開発者の実験作業は少なくなります。しかし、機構的動力学を記述するためには多数の分画データを収集し、製品の品質と収率を分析しなければならないため、必要な分析作業が増加することも考えられます。
分析作業負荷のこの変化については、2019年のHTPDカンファレンスでの発表において説明しました。ある事例研究では、モデル決定のために実施するクロマトグラフィーの実行回数は、仮想的な従来の中央複合DoE 3因子設計と比較して62%減少すると推定しました。しかし、製品品質の分析に必要な分画の数は69%増加すると推定しました。ただし、これはプロセスステップの分析作業に対する全体的なライフタイム投資としてはより良好なものであると考えられます。また、得られたプロセス理解のレベルは、メカニスティックモデリングの方が高いことも指摘できるでしょう。
困難な分離への挑戦
今日では結合・溶出モードとフロースルーモードの両方についてイオン交換分離の良好なモデルが存在し、また疎水性相互作用クロマトグラフィーやマルチモーダルクロマトグラフィーのモデルは多くの場合簡単に使用できます。セラミックヒドロキシアパタイトシステム、逆相およびアフィニティーシステムを含む他の吸着剤の化学特性を記述するモデルはそれほど発展していないかもしれませんが、これらのモダリティの応用についてもかなりの努力がなされています。困難な分離に対してメカニスティックモデリングにどのような有用性があるかはまだ完全には明らかになっていません。
スマートプロセス開発ツールボックスに追加されるシャープなツール
メカニスティックモデリングは、いかなる分離についても、その工程の開発を簡単に迅速化する方法ではありません。学習曲線というものが存在し、初期の研究にはかなり時間がかかるかもしれません。しかし、HTPDやMVDAなどの他のスマートプロセス開発手法とともに、メカニスティックモデリングは最終的にクロマトグラフィーのプロセス開発の迅速化に役立ち、プロセス理解を向上させます。
メカニスティックモデリングに関する詳細はこちらをご覧ください。
Author: Gunnar Malmquist
Dr. Gunnar Malmquist is a Senior Principal Scientist within our BioProcess R&D section and has over four decades of chromatography experience. His current focus is resin design strategies, quality by design, and process analytical technology together with empirical and mechanistic modelling of chromatography data for smarter process development and increased process understanding.