ラボスケールユニットを用いた
モノクローナル抗体の超ハイスピード精製

小スケールでのハイスループットプロセス開発(HTPD)に現在利用できるもっとも効率的なクロマトグラフィープラットフォームは、96ウェルプレート(例:CytivaのPreDictor™プレート)の形式です。これらは自動化された初期スクリーニング作業に非常に有用であり、資材コストおよび時間コストを削減しながら、多数の条件を探索できます(1)。しかし、プロセススケールへと変換する際に特別な液体ハンドリング装置や頑健なブリッジング実験が必要であるということは、不都合とみなされる可能性があります。

ファイバーベースのFibroクロマトグラフィーはこれに代わる手法です。ここでは、研究用スケールおよび96ウェルという2種類のハイスループットユニットについて得られた結果を紹介します。これらのユニットは、確立されたprotein Aリガンドおよびイオン交換リガンドをセルロースファイバー系吸着剤に固定化したものをポリプロピレン製ハウジングに収めたものであり、これらの研究ではFibroユニットと呼ばれています(2)。

ラボスケールのprotein A リガンドをもつFibroクロマトグラフィーユニットを評価しました。流量に依存せず高い結合容量を有し、一次捕捉モードにおいて、2分間のクロマトグラフィーサイクルで約10 mgのモノクローナル抗体を精製できます(図1)。図2は、高流量かつ小スケールで操作することで、材料の特性評価を行うのに十分な材料を精製しつつ、完全なプロセス開発を迅速に実施できるということを示しています。

  • 図1. protein AリガンドをもつFibroユニット(精製モノクローナル抗体アプライ量1.8 mg/mL、ユニット容量は0.4 mL)のmAb動的結合容量に対するレジデンスタイムの影響。

  • 図2. 3種類のクロマトグラフィーステップ(Fibroユニット、8本の並列Robo Colimnユニット、従来のレジンクロマトグラフィー)において8種類の探索条件のランに要した実験時間の概要(3)。

Fibroは、迅速なサイクルモードで運転できるよう設計されており、各ユニットは1つの作業シフト中に100サイクル以上使用可能です。このユニットは、大規模な工業プロセスにおけるmAbの量を処理できるように開発されています。

ここではmAbのキャプチャーステップのプロセス開発に関するケーススタディを紹介します。pHや溶出バッファー濃度、ポストロード洗浄バッファー濃度、流速などのプロセス条件を変化させました。2番目のケーススタディでは、堅牢なセルロースファイバー系マトリックスを用いて、ambr™ 15バイオリアクターから遠心分離で得られた材料を処理し、細胞株選択スクリーンの分析用サンプルを取得するという方法で、アップストリーム開発にキャプチャーステップ組み込むことを説明しています。

protein Aクロマトグラフィーステップのための
ハイスループットなバッファースクリーニング

実験計画法(DoE)研究の初期セットとして、溶出プロファイルにもっとも影響する要因であるバッファー濃度、pH、溶出時の流量について検討したところ、溶出バッファー濃度がもっとも大きく影響することが判明しました。ロード後の洗浄バッファーとの相互作用を含む、溶出プロファイルに対するバッファー濃度の影響に関する詳細な研究は、グラクソ・スミスクライン社(GSK、Gunnels Wood Road, Stevenage, Herts, SG1 2NY UK)から提供されたモノクローナル抗体(mAb 1)を用いて実施されました。

材料

  • ÄKTA™ avant 150、UNICORN™ 7.0を使用
  • HiTrap Fibro™ PrismA、マトリックス容量0.4 mL
  • 結合バッファー:20 mM Tris(pH 7.5)+150 mM NaCl
  • ロード後の洗浄バッファー(表1)
  • 溶出バッファー(表1)
  • mAb 1、protein Aによる精製前のモノクローナル抗体、結合バッファーにて1 g/Lとなるよう調製

方法

クロマトグラフィーは、ÄKTA™ avant 150を用いて、流量は15 mL/min(すなわち37.5 matrix volume(MV)/min)、レジデンスタイム1.6 s(平衡化、サンプル添加、ロード後の洗浄、溶出を0.4 mL マトリックスで実施)で、各フルサイクルは2 minで実施しました。ロード後の洗浄および溶出のためのバッファーは表1のとおりに変動させ、各バッファーは2 MV使用しました。

表1.本試験で使用したロード後の洗浄(PLW)バッファーおよび溶出バッファー

PLW buffer Elution buffer
1   20 mM Tris 150 mM, NaCl pH 7.5 A   30 mM NaOAc, pH 3.5
2   10 mM Tris, pH 7.5 B   50 mM NaOAc, pH 3.5
3   20 mM Tris, pH 7.5 C   100 mM NaOAc, pH 3.5
4   50 mM Tris, pH 7.5 D   150 mM NaOAc, pH 3.5
5   50 mM citrate, pH 5.5 E   30 mM acetic acid, pH 3.2
6   100 mM citrate, pH 5.5 F   50 mM acetic acid, pH 3.1
7   50 mM NaOAc, pH 5.0 G   100 mM acetic acid, pH 2.8
8   100 mM NaOAc, pH 5.0 H   150 mM acetic acid, pH 2.7

各ランのサンプル添加はmAb 1(1 g/L)を4 mLとし、洗浄バッファーと溶出バッファーの各組み合わせは2回の反復で測定しました。結果は、UNICORN™ 7.0ソフトウェアのautomated integration feature(自動積分機能)を用いてクロマトグラムを積分して求め、ピーク面積(mAU/mL)の値を用いて回収量を比較しました。

結果

結果を表2および表3に示します。回収率は溶出ピークの面積で定義され、カラム容量に対するピーク幅は溶出液のプール容量を示します。pHの変化速度は、洗浄バッファーと溶出バッファーの相対的なバッファー濃度によって決まり、変化が速いほどシャープなピークが得られます。バッファーがもっとも濃いときに。もっとも小さな溶出ピーク幅が得られました。しかし、protein Aプロセス後のステップ、(例えばウイルス除去、陽イオン交換(CEX)、陰イオン交換(AEX)クロマトグラフィーといったステップ)を考慮するならば、高濃度バッファーで得られた溶出プールは、pHを上げるためにより多くの量の滴定バッファーを必要とし、その結果、溶出プール全体の濃度が低くなってしまうことに注意が必要です。このデータはまた、酢酸について、特に低濃度では溶出に最適なpHに到達せず回収率が著しく低いため、溶出バッファーとして望ましくないことを示しています。

レジンベースのクロマトグラフィー吸着剤は非常に多孔質で、その表面積(約40 m2/g)の大部分が内部構造の中に隠されています。そのため、バルクフィード媒体中で運ばれている標的抗体は、クロマトグラフィーレジンの細孔の奥深くに埋もれた機能性結合面に到達するまでに、2段階の物質移動を経なければなりません。

中間洗浄ステップを低pHとすると、予想通りpH変化が速くなりますが、モル濃度が高いバッファーの場合は、洗浄によって溶出が始まってしまい、回収に悪影響があることが認められました。mAb 1にとってもっとも好ましい組み合わせは、洗浄バッファーとして50 mM酢酸ナトリウム(pH5.5)、溶出バッファーとして100 mM酢酸ナトリウム(pH3.5)を使用することでした。この条件では89%の回収率が得られ、ピーク幅は3.8カラム体積(CV)でした。64通りの実験条件を2回反復で実施したところ、4.5時間で完了し、HTPDに関するこのツールの威力が実証されました。これらの結果はまた、スケーラブルな工業的性能を実現するべく開発中のFibro吸着剤PDユニットを用いて、さらなるプロセス開発の最適化を行う際に重要な条件をも明らかにしています。

表2.mAb 1の溶出ピーク幅(ÄKTA™ avantシステムにおいて128ランを1日以内に実施)

Peak width (CV)   20 mM Tris
150 mM NaCl
pH 7.5
10 mM Tris
pH 7.5
20 mM Tris
pH 7.5
50 mM Tris
pH 7.5
50 mM citrate
pH 5.5
100 mM citrate
pH 5.5
50 mM NaOAc
pH 5.0
100 mM NaOAc
pH 5.0
    1 2 3 4 5 6 7 8
30 mM NaOAc
pH 3.5
A 6.6 4.1 6.5 6.5 3.6 3.1 4.2 3.3
50 mM NaOAc
pH 3.5
B 5.9 4.9 6.4 6.4 3.8 3.8 3.7 6.3
100 mM NaOAc
pH 3.5
C 5.5 4.4 5.0 5.0 3.8 3.7 3.8 3.8
150 mM NaOAc
pH 3.5
D 4.5 4.3 3.7 3.7 3.8 3.7 3.8 3.8
30 mM acetic acid
pH 3.2
E - 3.0 2.9 4.1 2.4 2.8 2.2 1.8
50 mM acetic acid
pH 3.1
F - 4.0 3.7 3.5 3.8 2.9 2.9 2.9
100 mM acetic acid
pH 2.8
G 5.5 5.1 4.9 5.0 5.1 4.5 4.9 4.3
150 mM acetic
acid pH 2.7
H 5.9 5.3 5.2 5.2 5.7 5.2 5.5 5.1

表3. mAb 1の%回収率(ÄKTA™ avantシステムにおいて128ランを1日以内に実施)

Recovery   20 mM Tris
150 mM NaCl
pH 7.5
10 mM Tris
pH 7.5
20 mM Tris
pH 7.5
50 mM
pH 7.5
50 mM citrate
pH 5.5
100 mM citrate
pH 5.5
50 mM NaOAc
pH 5.0
100 mM NaOAc
pH 5.0
    1 2 3 4 5 6 7 8
30 mM NaOAc
pH 3.5
A 71.2 68.1 59.4 55.4 57.4 45.0 67.9 44.7
50 mM NaOAc
pH 3.5
B 85.0 97.0 92.6 100.0 77.9 72.7 80.4 82.2
100 mM NaOAc
pH 3.5
C 89.1 97.8 95.6 91.3 86.1 85.6 89.0 81.5
150 mM NaOAc
pH 3.5
D 89.1 96.5 96.6 89.2 85.8 87.9 89.3 80.4
30 mM acetic acid
pH 3.2
E - 46.6 54.4 76.9 33.6 51.6 27.8 27.4
50 mM acetic acid
pH 3.1
F - 63.0 71.6 80.4 56.5 40.4 46.3 37.1
100 mM acetic acid
pH 2.8
G 93.3 92.9 93.9 96.5 82.8 70.9 77.3 69.8
150 mM acetic
acid pH 2.7
H 91.2 96.5 100.0 98.8 91.6 82.1 87.4 82.7

結論

種々のHTPDアプリケーションにおいてFibroユニットの有用性を実証しました。 吸着剤は非常に少量ですが、多くのデータおよびプロセス開発への理解が得られます。これは、Fibro吸着剤における物質移動が迅速であることに起因しており、スケールアップに伴う複雑さが少ないことを意味しています。ユニット形式のスケーラビリティ基準は、メソッドを簡単に拡大/縮小できることを意味しています。

小型でスケーラブルなユニットにより、最小限のフィード量でさまざまなプロセスパラメータを探索することができます。ユニットは最大200回までサイクルを繰り返すことができ、反復試験や吸着剤寿命の理解についての信頼性を高めるだけでなく、さらなる試験のために意味ある量の研究材料を生産することができます。すべてのユニットは、標準的なÄKTA™システムで使用できます。

参考文献

本ケーススタディで使用されているFibro PrismAの製品情報はこちらから