グラジエントメーカー
筆者のラボで使用しているのはCytiva製のグラジエントメーカー(DALT Gradient Maker with Peristalic Pump 115 V AC、80606765)である。このグラジエントメーカーは昔からあるもので、10年ほど前に留学していたSamir Hanash博士のラボでもぼろぼろに使いこまれた同じ原理の装置がフル稼働していたのを記憶している(送液にポンプではなく重力を利用していた)。帰国してから、Cytivaのカタログに同じような装置があるのを発見し、国立がんセンターで使い初めてから7年が経ったがトラブルらしいトラブルは皆無である。実にいい装置で気に入っている。
図1 グラジエントメーカーの写真
本体から出たチューブにペリスタポンプが接続されている。今回は撮影のため省いたが、本番ではチューブの先にはゲル作成ボックスを接続し、ゲル溶液が満たされるように設定する。グラジエントメーカーの写真。本体から出たチューブにペリスタポンプが接続されている。今回は撮影のため省いたが、本番ではチューブの先にはゲル作成ボックスを接続し、ゲル溶液が満たされるように設定する。
原理的にはいい装置なのだが、残念ながら買ったままの状態ではこの装置ではゲルを作ることができない。流路が長いため2種類の溶液を混ぜる過程で細かい泡があまりにもたくさん発生してしまうからである。この問題を解決するための工夫をこれから述べることにする。
今回のオペレーターは筆者の研究室の主戦力の藤江由希子氏で、彼女はすでに1,000枚以上の巨大ゲルを泳動したツワモノである。今回は撮影のためゲル溶液の代わりに水道水を使って操作を行っているが、本番と特に変わるところはない。
用意する小物
まず、次の写真にある小物を作成していただきたい。これはゲル溶液が混合された直後のところに三方活栓をつけたものである。T字になっているところで流路を切り替えて、注射器側かポンプ側に切り替えてゲル溶液を流せるようになっている。また、チューブの4か所に液体を止めるコックをつけている。これらはアズワン社などのカタログから集めた小物であり、一点一点市販されている。組み合せてセットにした写真のようなものは市販はされていないのだが、写真をみていただければ自作は容易だと思われる。
部品を全部そろえても3,000円もしないだろう。(作成法でもしわからないところがあれば、近藤までメールでご連絡ください。ご質問にお答えします。)
図2 自作の三方活栓
ゲル溶液の組成
溶液の組成はグラジエントメーカーに付属する説明書に書かれているものとほぼ同じもので、次に記載するような内容である。容量はCytivaのゲル作成ボックスに合わせている。この組成が絶対というものではなく少々違っていてもぜんぜん構わないのだが、変える必要がなければこの組成で行うことをとりあえずはお勧めする。組成は少々変えても構わないが、APSとTEMEDがあまり濃いとゲル作成の過程でゲル溶液が早々とゲル化してしまうというトラブルが発生するかもしれない。グラジエントメーカーを使う際に固有の注意点である。
【9%溶液】
30%アクリルアミド溶液 143 ml
1.5M Tris-HCl pH 8.8 119 ml
87% Glycerol 0 ml
超純水 203 ml
10%SDS 4.75 ml
10% APS 4.75 ml
10% TEMED 0.9 ml
合計 475 ml
【15%溶液】
30%アクリルアミド溶液 237 ml
1.5 M Tris-HCl pH 8.8 119 ml
87% Glycerol 33 ml
超純水 78 ml
10%SDS 4.75 ml
10% APS 2.38 ml
10% TEMED 0.17 ml
合計 475 ml
注
30%アクリルアミド溶液??(和光純薬 016-15915)
1.5 M Tris-HCl pH 8.8 (バイオラッド 161-0798)
87% glycerol (Cytiva 17132501)
SDS (和光純薬 191-07145)
APS(Cytiva 17131101)
TEMED (Cytiva 17131201)
APSとTEMED以外を混ぜておき、APS、TEMEDをこの順番で攪拌しながら加える。前述のように、冷蔵庫から出してすぐの溶液は冷たいので時間をかけて室温に戻す。室温に戻してから混ぜてもいいし、混ぜながら室温に戻してもよい。くどいようだが、この操作は重要である。
グラジエントメーカーへのゲル溶液の注入
この装置ではゲル溶液を入れるチャンバーが2つに分かれている。アクリルアミドの濃度の濃い溶液と薄い溶液を、片側ずつに注ぎ込む。注ぎ込まれた溶液はペリスタポンプで送液され、混合され、ゲル作成ボックスへと注ぎこまれる。2つのチャンバーは真ん中のゴム製の仕切りで区切られている。この「仕切り」の位置は自由に変えることができる。グラジエントメーカーの説明書を参考に調整していただきたい。
調整はいたって簡単(原始的?)で、本体前面にあるねじを若干ゆるめて付属の棒をチャンバー内につっこみ、つついて仕切りを動かす。いったん仕切りの位置を決めたら動かさない方がよいだろう。洗浄操作くらいでは動かないのでねじを緩めない限りは心配しなくてもよい。
図3 ゲル溶液を注ぐところ
まず、すべてのコックをきっちり閉めてからグラジエントメーカーを傾け、できるだけ泡が立たないように、そろりとゲル溶液を注ぎ込む。右に9%の溶液、左に15%の溶液を注ぎ込む。ゲル溶液を入れる順番はどちらでも構わない。
図4 注いだ後の気泡
どんなに注意してゲル溶液を注いでもどうしても泡は発生する。しかし次の操作の間に大半は自然に消滅する。また、装置に付着した細かい泡は動かない。だから、あまり気にしなくてもよい。
ゲル溶液の混合
次にペリスタポンプをオンにして両方のチャンバーに入った液体を混ぜるのだが、何も工夫しないでこの操作を行うとチャンバーからゲル溶液が出る瞬間にたくさんの泡が発生してしまう。発生した泡はそのままゲル作成ボックスへと移行しゲルを台無しにする。
この問題を解決するポイントが上述の三方活栓と注射器である。注射器を使ってできるだけ流路を溶液で満たしてやることで泡の発生を最小限に抑えることができる。この小物がないと致命的な泡の発生を避けられないのではないかと思う。(もし他に案があればご一報ください。)
図5 三方活栓の使い方(1)
まず、三方活栓をまわして流路が注射器に行くようにする。右側のチャンバーから注射器までゲル溶液が通るようにコックを調節する。
図6 三方活栓の使い方(2)
次に注射器を引き、空けている流路がすべて溶液で満たされるようにする。何度かポンピングして流路に空気が残らないようにする。泡がチャンバー内に吐き出されるのだが気にしない。
最後に注射器の中に30 mlほどゲル溶液を残して、いったんすべてのコックを閉じる。
図7 三方活栓の使い方(3)
次に、もう片側のチャンバーからの流路が注射器とつながるようにし、チューブ内の空間を注射器に残った溶液で満たす。このとき、チューブ内の空気は今つないだチャンバーの中にぶくぶくと出ていく。一気に注射器を押してチューブ内に空気が残らないようにする。
右のチャンバー内のゲル溶液は多少は左のチャンバーに入るのだが、実質的に問題にならない(電気泳動の結果として影響を認識できない)。
図8 三方活栓の使い方(4)
最後にすべてのコックを閉じる。