「Quality Assessmentのミカタ」と題して、①(kd編)②(ka編)③(U-value編)をお届けしてきました。その中で、解析値の受け入れに絶対的な基準はありませんとお伝えしました。1:1 binding modelを使用したkinetics解析においてQuality Controlが表示する、緑、黄、赤信号それぞれの設定基準の多くは非公開です。そして、ka、kdの信頼性(真度と精度の許容範囲)は、研究ステージなども踏まえて測定者の皆様にご判断いただきます。

今回は“Bulk contributions (RI)”が、緑信号にならなかった場合についてのお話です。

Bulk contributions (RI)??

普段からBiacore™ 1 seriesやBiacore™ 8 seriesに標準搭載のBiacore™ Insight Evaluation Softwareを用いて、Kinetics解析をしている方はあまり意識をしていないかもしれません。Figure 1の通り、Quality Controlの3番目は“Bulk contributions (RI) were not evaluated, The RI parameter is set to constant”となっています。これはデフォルトの設定で1:1 binding modelのRIというが項が固定値0になっており、フィッティング解析の変数ではないためです。そのため信号機のマークも出てきません。

Figure 1

それに対して、Biacore™ X100、Biacore™ T200、Biacore™ S200では、デフォルトで変数として扱われるため、1:1 bindingモデルによるKinetics解析を実施するとQuality Controlの3番目で信号機マークが出てきます。

Figure 2

そもそもbulk contributions (RI)とはなにか。Biacore™ のSPRシグナルは、センサーチップの金膜近傍における溶液の密度変化を反映するため、ランニングバッファーに対して密度の異なる溶液が添加されるだけでレスポンスが生じます。これを溶液効果(Bulk Effect)と呼びます。

そのため、Biacore™ による測定では、リファレンスセル(Fc1)を用意し、リガンド固定化セル(Fc2)のセンサーグラムから、Bulk分を差し引いたFc2-1のセンサーグラムを解析に用いるわけです。

Figure 3

フィッティング解析の前には、通常、リファレンスの差し引きに加えて、ブランク(0濃度)によるドリフトの補正も行われます(ダブルサブトラクション)。これによって極端な溶液効果が無い限り、Bulkの影響はほとんど0となります。そのため、Insight Evaluation Softwareでは、RI(Bulk Refractive Index)がdefaultでConstant 0になっています。もし、Fc2-1のセンサーグラムでも、アナライトインジェクション前後に段差部分が残ってしまった場合、Initial valuesの設定画面から変数にすることも可能です(Figure 4)。

Figure 4

その時、フィッティングカーブに、アナライトインジェクション前後の垂直に変化する段差部分が大きく現れた場合(RI値が大きい場合)、High bulk contributions (RI) foundの黄色や赤信号が出ます(Figure 5)。センサーグラムにも実際に段差が残っていれば、Bulkを回避するため、なるべくランニングバッファーとアナライト溶媒の組成を近づけていただきます。

Figure 5

これって本当にbulk contributions?

ダブルサブトラクション後のセンサーグラムでBulkによる段差が消えているのに、High bulk contributions (RI) foundの黄色や赤信号が出てしまうケースがあります。特に以下のようなケースは、実際のセンサーグラムを確認し、注意してご判断ください。

Case1:結合解離が速い場合

Figure 6のQuality controlでは、Bulk contributions (RI)だけでなく、ほかの項目にも黄色や赤信号が出ていますが、まずRIに着目してください。フィッティングカーブは垂直な段差があるものとして捉えていますが、実際のセンサーグラムを見ると段差が残っているわけではなく、結合・解離が非常に速いサンプルのようです。それにもかかわらず、解離時間を600秒もとっているため、RI値が大きいものとしてフィッティングしたほうが、Chi2値は最小になる(最もセンサーグラムに近似する)と計算されたようです。

Figure 6

このような場合、やはり、RIをConstant 0に戻すか、250秒目程度以降の余計なセンサーグラムを削除する(もしくはその両方)ほうが、より適切なフィッティングがされます(Figure 7)。

Figure 7

Case2:1:1結合ではない場合

続いて、Figure 8をご覧ください。最高濃度のセンサーグラムでアナライトインジェクション終了部分を見ても、段差が残っているわけではないようですがフィッティングカーブのズレも大きいです。解離相を見ていただくと、後半部分は緩やかに下がっていく様子が見られますが、解離のはじめ数十秒程度だけ少し勾配が大きい、二相性が見られています。実は、抗体(2価)をアナライトとして流しているデータであり、1:1 bindingのモデルでフィッティング解析を行うべきでものではありません。

Figure 8

抗原-抗体のKinetics解析では、抗体をリガンドとすることが第一選択となりますが、どうしても抗体をアナライトにする必要がある場合、フィッティングモデルとしてBivalent analyteを選択します(Figure 9)。また、1:1 binding 以外のフィッティングモデルではQuality Controlが表示されません。

Figure 9

Bivalent Analyte modelの詳細に関してはこちらの既出記事をご覧ください。

まとめ

  • Bulk contributions (RI)は、ダブルサブトラクションによって溶液効果が十分に削除できているかを評価しています。結果が良好であればRI値は0に近い値を取ります。
  • Insight Evaluation Softwareでは、デフォルトでRIが0(固定値)となっているためQuality Controlで評価がされません。
  • 結合解離が速いサンプル、1:1 bindingで解析すべきではないデータなどにおいてHigh bulk contributionsと評価される場合があります。センサーグラム形状、フィッティングモデルが適切であるかご確認ください。