細菌、ウイルス、腫瘍細胞などのさまざまな脅威と戦うためのワクチン療法

人間の生体防御の免疫機能を利用したワクチン療法は、18世紀後半のジェンナーによる「種痘」の発見から、DNAやRNAをベースとした最新の遺伝子ワクチンやがん免疫療法ワクチンまで、細菌、ウイルス、腫瘍細胞などのさまざまな脅威と戦っています。

免疫応答の元となる抗原には、細菌またはウイルス、および多糖類やタンパク質のサブユニットなどが含まれます。また免疫応答を高めるためのアジュバントと組み合わせても使用されています。

ワクチン抗原の多様性がもたらすワクチン製造の課題

これらワクチン抗原の多様性は、製造プラットフォームの利用が可能なバイオ医薬品とは異なり、ワクチンメーカーに製造上の課題をもたらしました。製造のリードタイムを短縮し、生産コストを削減できる効率の高い生産システムが必要です。

ワクチン技術の研究の進歩とQuality by Design(QbD)によるプロセス開発のアプローチを通して、ワクチンの開発と製造を加速することは、世界中でワクチンを必要としている人々に予防接種を提供するために重要です。

ワクチン抗原は標的細胞やウイルスから、直接または遺伝子組換え発現系によって間接的に作成することができます。近年では遺伝子組み換え技術を使って、生体内で抗原を生成する方法に注目が集まっています。この新しいワクチンは、発酵プロセスによるDNA(プラスミドDNA)、または化学合成によるRNA(mRNA)を抗原としています。

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) による製薬業界の変化

新薬の発見から上市まで、科学や製造技術、規制の面で多くの課題があり、10年以上かかると言われています。

ですが、COVID-19ワクチンは数か月でワクチン候補が発表され、2020年が終わる前には最初の緊急使用承認が下りました。その後さらに承認は進み、2021年夏ごろには世界で10億人以上が完全に接種を受けました。特に上市までに慎重な手順をとるとされる製薬業界にとって、COVID-19のパンデミックは業界に革命的な変化をもたらす可能性があり、将来的には医薬品の開発・製造の効率化が期待できます。

また、承認されたCOVID-19ワクチンのうち2種類(EMAとFDAの両方から認可された最初のワクチンを含む)はmRNAをベースにしていましたが、mRNAベースの治療薬はこれまで承認されていませんでした。そのため、この業界はワクチン開発・製造のスピードを急いだだけではなく、新しい手法に基づくワクチン開発・製造を急いでいたことがわかります。現在では、mRNAとゲノム医療がもたらす機会を探ろうとする企業が増えています。

ワクチン製造をサポートするCytivaのソリューション

Cytivaは常に新しいワクチンの開発と製造の課題に対応するソリューションを強化してきました。革新的なプロセス技術は、迅速なプロセス開発をサポートし、クローズドシステムによる堅牢で柔軟なプラットフォームを提供します。またポールの応用技術研究所(SLS)チームは、長年にわたり、流体のろ過・分離・精製を核に、バイオ医薬品製造に関わる技術ついての課題に取り組んできました。これらの知識と経験を元に、お客様のワクチン製造のニーズを満たすプラットフォームの構築をサポートします。

Cytivaは、迅速な生産施設の立ち上げや既存プロセスの効率向上を支援いたします。ぜひお気軽にお問い合わせください。

ワクチンの種類 抗原 代表的な製造プロセス
核酸ワクチン プラスミドDNA(pDNA)
メッセンジャーRNA(mRNA)
組換えベクターワクチン
発酵
化学合成
細胞培養
組換えワクチン 組換えタンパク質
組換えウイルス
細胞培養
サブユニットワクチン 組換えタンパク質
多糖類/ペプチド
コンジュゲート
細胞培養(哺乳類/昆虫)
発酵(細菌/酵母)
トキソイドワクチン トキソイドタンパク質 発酵
全細胞ワクチン 弱毒化されたウイルス
弱毒化された細菌
哺乳類細胞培養
微生物細胞培養
不活化ウイルス
不活化細菌
微生物細胞培養
鶏卵/哺乳類細胞培養

核酸ワクチン

組換えワクチンとともに、核酸ワクチンは最も急速に成長しています。特に、新たなウイルスの脅威に対応する迅速なワクチン開発に適しています。DNAまたはmRNAは標的抗原を生体内で生成するようにコードされ、標的組織への核酸成分の送達には、脂質ナノ粒子(LNP)、ウイルスベクター、プラスミドDNAベクター、またはエレクトロポレーションなどの手法が使用されます。

mRNAワクチン

化学合成によって作成され、特定疾患の抗原を直接生成するためにコード化されたこの新しいワクチンは、迅速なプロセス開発と商業化へのスケールアップが容易です。また、腫瘍関連の抗原を標的とすることにより、さまざまながんの予防と治療にも有望です。

この化学合成されるワクチンは、複雑な生物学的プロセスと比較して製造上の課題を単純化でき、結果としてより高い安全性が期待されています。これらの明らかな利点にもかかわらず、遺伝物質を標的細胞へ安定的に送達する技術や、原薬の合成、製剤化、および充填などプロセス全体を通じて特定の課題を解決しなければなりません。

例えば、脂質ナノ粒子(LNP)が送達手段として検討されていますが、このような複雑な製剤は一部の滅菌フィルターのろ過特性の影響を受けやすく、慎重なフィルターの選択をしないと細菌混入のリスクが高くなることが知られています。

mRNAワクチン製造のためのソリューション

ダイアフィルトレーション(透析)および濃縮で使用される限外ろ過は、分子サイズの違いによる精製に適用できます。

陰イオン交換メンブレンクロマトグラフィーは、エンドトキシンなどの汚染物質の除去に適用できます。

複雑な配合のプロセス液のろ過では、さまざまな課題が発生します。高い収率を維持するために、慎重なフィルターの選択が必要です。高いスループットを実現するカプセルは、フィルターサイズに起因する損失を減らし、高い収率を維持します。
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清浄な製造プロセスの維持は、cGMPに準拠した製造の重要事項です。シングルユースシステムの採用は、プロセス内での回収と移送のためのバッグから、完全に統合された自動化シングルユースシステムによる製造ラインまでさまざまです。これらは、多品種のワクチンを製造するためのクローズドな製造プロセスをサポートし、経済的で、高い生産性を実現します。

プロセス開発・GMP製造に関するお問い合わせ

Cytivaは、シングルユース技術を使用したmRNA製造ソリューションを提供しています。脂質ナノ粒子の製造から、TFFやろ過滅菌等のプロセスに関して、国内のスぺシャリストがGMP製造を見据えた提案をいたします。お気軽にお問い合わせください。

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DNAワクチンープラスミドベクター

プラスミドDNAによって形質転換された細胞を使用するワクチンは、標的病原体またはがん細胞に関連する抗原タンパク質を細胞内で発現させます。必要とされるプラスミドDNAの製造規模は対象疾患によって異なりますが、製造プロセスは遺伝子治療用途に使用されるウイルスベクターと基本的に同じです。

シングルユース技術の導入

培地調製から細胞培養および精製に至るまで、シングルユースシステムとバイオリアクターを無菌コネクターやディスコネクターで連結することで、製造プロセス、最終製剤、充填などのすべての段階で高い安全性を維持できます。

これらのクローズドなソリューションは、同じ施設内における複数品目の製造のための迅速なターンアラウンドもサポートします。

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DNAワクチンーウイルスベクター

ウイルスベクターを使ったDNAワクチンは、ワクシニアウイルスやアデノ随伴ウイルス(AAV)などの無害なウイルスを使用して、標的組織に遺伝情報を送達します。送られた遺伝情報は、抗原となるタンパク質を発現させ、免疫系を刺激して抗体を産生させます。

これらのプロセスは、遺伝子治療と同じ技術的背景を活用しており、特にウイルスを増殖させるための付着および浮遊細胞の大規模な培養技術が重要です。またプラットフォーム化された精製プロセスと組み合わせることで、これらのワクチンを迅速に開発し、市場投入することができます。

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シングルユース技術の導入

培地調製から細胞培養および精製に至るまで、シングルユースシステムとバイオリアクターを無菌コネクターやディスコネクターで連結することで、製造プロセス、最終製剤、充填などのすべての段階で高い安全性を維持できます。

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組換えウイルスワクチン

遺伝子組換えされたウイルスは、野生株ウイルスと同じ免疫応答が期待でき、かつ望ましくない影響を除くことができるため、ワクチンのプラットフォームとして大きな期待が持たれています。製造プロセスは、培養される細胞株によっては、遺伝子治療とモノクローナル抗体の生産の両者で類似している技術もあります。

組換えウイルスワクチン製造のためのソリューション

シングルユースバイオリアクターをはじめ、培地ろ過や無菌的に添加物を投入するためのろ過滅菌グレードフィルターをご用意しています。

ウイルスを宿主細胞から分離する際に、高い収率を維持するためには、プロセスの最適化を慎重に検討する必要があります。シングルユースのデプスフィルターシステムを使用することで、清澄化の操作を簡素化し、適切なグレードの選択によって、回収率を最適化できます。

詳細はこちら

  • 濃縮およびダイアフィルトレーション:限外ろ過カセットを使用した、分子サイズに基づく汚染物質分離 詳細はこちら
  • 陰イオン交換メンブレンクロマトグラフィー:宿主細胞由来のDNAやHCP、エンドトキシンなどのさまざまな汚染物質の除去プロセスを簡素化します。また、せん断力の影響を与える限外ろ過を行わず、ウイルスの精製および濃縮の操作が行えます。 詳細はこちら
  • ウイルス安全性:哺乳類の細胞培養を含むプロセスでは、ウイルス安全性が重要な考慮すべき事項であり、不活化やろ過による除去など、異なる原理の組み合わせによる管理が行われています。 詳細はこちら

組換えワクチン

抗原となるタンパク質の複雑さに応じて、酵母、細菌、哺乳類、昆虫などの細胞株を使用することができます。また、いくつかの抗原を組み合わせる(コンジュゲートさせる)ことで、所望の免疫応答を誘導することができます。

哺乳類細胞株を使用する場合、プロセスはモノクローナル抗体製造における課題を共有しており、これらのワクチンの開発と製造において、実績のある費用効果の高いソリューションを利用できます。

組換えワクチン製造のためのソリューション

シングルユースバイオリアクターをはじめ、培地ろ過や無菌的に添加物を投入するためのろ過滅菌グレードフィルターをご用意しています。

スループットと収量が最適化された、シングルユースのデプスろ過システムは、単独または遠心分離と組み合わせて使用することで、細胞およびデブリスなどを簡単に除去できます。

  • Stax™ ディスポーザブル・デプスフィルターシステム:遠心分離後、または低い濁度の細胞培養液の清澄化をサポートします。詳細はこちら
  • Stax mAx清澄化プラットフォーム:高い濁度の哺乳類および昆虫細胞の培養液からでも、シンプルで拡張性の高いソリューションを提供します。日本語カタログはこちら
  • 濃縮およびダイアフィルトレーション:限外ろ過カセットを使用した、分子サイズに基づく汚染物質分離 詳細はこちら
  • Mustang Q XT 陰イオン交換メンブレンクロマトグラフィー:宿主細胞由来のDNAやHCP、エンドトキシンなどのさまざまな汚染物質の除去プロセスを簡素化します。 詳細はこちら
  • ウイルス安全性:哺乳類の細胞培養を含むプロセスでは、ウイルス安全性が重要な考慮すべき事項であり、不活化やろ過による除去など、異なる原理の組み合わせによる管理が行われています。 詳細はこちら

清浄な製造プロセスの維持は、cGMPに準拠した製造の重要事項です。シングルユースシステムの採用は、プロセス内での回収と移送のためのバッグから、完全に統合された自動化シングルユースシステムによる製造ラインまでさまざまです。これらは、多品種のワクチンを製造するためのクローズドな製造プロセスをサポートし、経済的で、高い生産性を実現します。

トキソイド(細菌毒素)ワクチン

トキソイドワクチンは、不活化されたトキソイド(細菌毒素)を抗原として、ジフテリアや破傷風などの特定の細菌の脅威から保護します。

トキソイドワクチン製造のためのソリューション

シングルユースバイオリアクターをはじめ、培地ろ過や無菌的に添加物を投入するためのろ過滅菌グレードフィルターをご用意しています。

スループットと収量が最適化された、シングルユースのデプスろ過システムは、単独または遠心分離と組み合わせて使用することで、細胞およびデブリスなどを簡単に除去できます。

  • Stax™ ディスポーザブル・デプスフィルターシステム(例 K100Pグレード):遠心分離後、または低い濁度の細胞培養液の清澄化をサポートします。詳細はこちら
  • 濃縮およびダイアフィルトレーション:限外ろ過カセットを使用した、分子サイズに基づく汚染物質分離 詳細はこちら
  • Mustang Q XT 陰イオン交換メンブレンクロマトグラフィー:宿主細胞由来のDNAやHCP、エンドトキシンなどのさまざまな汚染物質の除去プロセスを簡素化します。 詳細はこちら
  • ウイルス安全性:哺乳類の細胞培養を含むプロセスでは、ウイルス安全性が重要な考慮すべき事項であり、不活化やろ過による除去など、異なる原理の組み合わせによる管理が行われています。 詳細はこちら

アジュバントの添加後に滅菌濾過が実施できない多価ワクチンなどの無菌製剤には、無菌接続デバイスが最適なソリューションです。

クリーンパック® プレスト無菌コネクタークリーンパック・無菌ディスコネクターは、シングルユースシステムを使用する際の流路の接続、切断の汚染リスクを制御して、オペレーターの負担を軽減し、最終製品の品質を確保します。

不活化ワクチン/弱毒生ワクチン

第一世代のワクチンは、不活化または弱毒化されたウイルスを使用しています。インフルエンザワクチンの場合、これらは鶏卵胚への接種から製造されました。ヒト胎児腎臓(HEK)-293細胞やManin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞などの哺乳類細胞を使用した最近の開発は、ワクチンの有効性を改善し、より柔軟な製造プロセスを可能にします。

大規模な培養から製剤化まで、全体を通して無菌状態を維持するためには、慎重なプロセス設計が重要です。ワクチンに添加されるアジュバントのために、滅菌グレードのろ過フィルターが使用できない場合、より厳格なプロセス管理が必要となります。これらの課題に対応するには、プロセス全体で無菌状態を維持する必要があり、クローズドなシングルユースシステムを使用することで可能となります。

不活化ワクチン/弱毒生ワクチン製造のためのソリューション

細胞除去および清澄化の最適な手法は、細胞培養プロセスによって異なります。細胞培養ベースのワクチンの場合、細胞株にも依存しますが、シングルユースのデプスろ過の採用は効果的な解決策です。

鶏卵ベースのワクチンでは、デプスろ過と遠心分離を組み合わせることで、不溶性の汚染物質を除去し、後段の精製および製剤化を効率化できます。