Biacore™ Insight Softwareは、より直感的に操作できるようユーザーインターフェースが向上した解析ソフトウェアです。

  • プレゼンテーション資料の自動作成機能(Microsoft® Excel®、PDF、Microsoft® PowerPoint®)により報告用資料の作成時間を短縮。
  • Evaluation メソッドをベースとした自動解析機能を搭載。ルーチンで使う解析設定を編集・保存可能。
  • Floating ライセンス方式のため複数のPC からネットワークを介してアクセス可能。
  • データを一元管理して、Biacore™ 1シリーズ、8シリーズ、T200(v2以降)、S200で使用可能。
  • 現在の研究ニーズに合わせてアプリケーションの拡張(Extensionの追加)が可能。

データの一元管理、Floating ライセンス方式

Biacore™ Insight Softwareは、複数台のBiacore™ を使用であってもSQLデータベースを用いて、測定データを一括で管理します。SQLデータベースには有償版と無償版がありますが、ネットワークサーバーに有償版のSQLデータベースを用意することが望ましいです。

特に後述のGxP Extensionを用いる場合、セキュリティーが高く、データバックアップやログの記録に優れたネットワークサーバーで使用することを強く推奨します。無償版SQLデータベースは常にBiacore™ Insight Softwareと一緒にローカルPCにインストールします。主にサービス目的で使用されますが、ネットワークにアクセスできない環境でのデータ運用にも使用できます(表 1)。

表 1.無償版・有償版SQLデータベースの違い

無償版

有償版

SQL Microsoft® SQL Server Express Microsoft® SQL Server Standard
または
Microsoft® SQL Server Enterprise
データサイズ 10 GB
週3日運転で半年分程度
任意
価格 無料 有償(構成内容により異なる)
ネットワーク ローカル設定のみ ネットワーク構築可能

ソフトウェアライセンスはFloating ライセンス方式を採用し、SQLデータベースへアクセスできるPCであれば、ライセンス数に応じたユーザーが同時に使用できます(図1)。

図1.Biacore™ Insight Softwareによるデータ管理

  • パターン 1:無償版SQLによるスタンドアローンでの運用
  • パターン 2:SQLサーバーを用いたBiacore™クローズドでのデータ管理
  • パターン 3:SQLサーバーを施設内ネットワークに接続したデータ管理

※いずれの場合においても無償版SQLはAおよびBのPCにはインストールされます。

図 1のパターン 3のようなネットワーク接続でデータ管理を行うことで、以下のことができます。

  • データの安全性が保たれる(消失・漏洩の予防)。
  • 施設内ネットワーク上のあらゆる場所からアクセスできる。
  • 複数の装置のデータを一元化することができる。
  • データインテグリティーの観点で望ましい。

また、パターン 3に関して、いくつかネットワーク構築方法があります(図 2)。

図 2.Biacore™ Insight Softwareによるデータ管理(ネットワーク構築パターン)

A:Biacore™用にSQLデータベースを構成した専用サーバー(物理的なサーバーまたはクラウドサーバー)を用意して、施設内のネットワークに組み込む。
B:既存の施設サーバー中に、SQLデータベースを構成した仮想領域を用意する。

Biacore™ Insight Softwareでできること

SQLデータベースによる運用でデータ検索機能に優れ、サンプル名、ユーザー名、使用機種(シリアル)、実施期間、などから必要なデータを引き出せます。また、サンプルの種類(低分子、フラグメント、抗体、そのほか分子など)や固定化方法(直接法、各種キャプチャー法)に応じたEvaluation メソッドがプリセットされており、RUNデータに合ったメソッドを選択するだけで解析が実行されます(図 3)。

図 3.プリセットされた各種Evaluation メソッド

Sensorgramやそのサムネイル表示、Result table、そして、on-off rate chart、KD chartといった様々なchartが一画面に表示できます。サンプル数に限らず大規模なスクリーニングデータも迅速にオーバービューでき、注目すべきデータが特定できます。画面左のSettingでは表示したいデータの選択のほか、解析のカスタマイズも可能で、ルーチンで使う解析設定を編集・保存しておくことができます(図 4)。

図 4.解析結果のオーバービューと解析のカスタマイズ

プレゼンテーション資料の自動作成機能が充実しており、Spreadsheet(Microsoft® Excel®)、Presentation(Microsoft® PowerPoint®)、PDF の各種形式で、数値データだけでなくSensorgramやそのサムネイル表示、各種chartなど、必要なデータ選択して抽出できます。Presentationで出力されたSensorgram、Chartに関しては、XY軸スケール、配色などの編集も可能です(図 5)。

図 5.データのエクスポート、プレゼンテーション資料の自動作成機能

Spreadsheet(Microsoft® Excel®)、Presentation(Microsoft® PowerPoint®)、PDFへのExportが可能。

Extensionsの種類とできること

Biacore™ Insight Softwareでは、研究ニーズに合わせてアプリケーションの拡張(Extensionの追加)が可能です。現在、ベースソフトウエア1種類およびExtension 6 種類を取り扱っています(図 6)。機種によって一部対応しないものもありますのでご注意ください(表 2)。

図 6.ベースソフトウエア1種類およびExtension 6種類の取り扱い(2023年時点)

  • Biacore™ Insight Software
    ベースソフトウェア
  • Biacore™ Insight Extended Screening Extension
    各種ワークフローを用いて、適切な補正を行いながらスクリーニングができる。
  • Biacore™ Insight Epitope Binning Extension
    抗体のエピトープビニング解析ができる。
  • Biacore™ Insight Concentration and Potency Extension
    活性濃度測定およびPLA/EC50解析ができる。
  • Biacore™ Insight GxP Extension
    GxP環境下での測定ができる。
  • Biacore™ Insight Data Integration Extension
    電子ラボノートなどへのデータ転送ができる。
  • Biacore™ Intelligent Analysis™
    機械学習を用いて大規模スクリーニングデータを迅速に評価できる。

表 2.各機種におけるBiacore™ Insight SoftwareおよびExtensionの対応

Software and extensions

Biacore™ 1シリーズ

Biacore™ 8シリーズ

Biacore™ T200

Biacore™ S200

Biacore™ Insight Software
Extended Screening Extension
Epitope Binning Extension
Concentration and Potency Extension
GxP Extension
Data Integration Extension
Biacore Intelligent Analysis™

Biacore™ Insight Software や extensions は解析をサポートしますが、Biacore™ T200/S200 Control softwareに、測定Methodをサポートする機能が含まれません。

Biacore™ Insight Extended Screening Extension

結合レスポンスを指標に一定のカットオフで多検体のスクリーニングを行う際、各検体を公平に評価することが重要です。時間経過に伴うレスポンスの低減、分子量の違い、キャプチャー法におけるリガンドキャプチャー量の違いなど、本Extensionにはスクリーニングにおける重要な補正機能が含まれます(記事「低分子スクリーニングの補正機能について」もご覧ください)。また、低分子のBinding Level Screenにおいてはセンサーグラム形状による分類を行い、適切なヒット化合物を選抜することができます(図 7)。

図 7.低分子におけるBinding Level Screen

Fragment-based drug discovery における典型的なSPR workflowである Clean screen、Binding level screen、Affinity screenがプリセットされており、迅速に結果へとたどり着くことができます(図 8)。各種スクリーニングワークフローに関してはこちらのCytiva Webinar:「必見!Biacore™戦略と測定条件のワークフロー」をご覧ください。

図 8.Fragment-based drug discovery におけるワークフロー

  • Clean screen:フラグメントを流した後、ベースラインに戻らないものを物性が悪いサンプルとして除外する。
  • Binding level screen:閾値以上の結合レスポンスがみられたもの中でBad behaviorを除いたものをHitとする。
  • Affinity screen:複数濃度のアナライトを添加し、平衡値解析からKDを評価。

Biacore™ Insight Epitope Binning Extension

モノクローナル抗体の評価において、認識するエピトープの多様性を迅速に評価できます。Epitope Binningの代表的な3つのフォーマットが用意されており(図 9)、大規模なマトリックスデータにおいてデータをビジュアル化し、効率よく評価を行うことができます(図 10)。

図 9.Epitope Binningの代表的な3つのフォーマット

  • Sandwich assay:一次抗体を固定化。抗原、二次抗体を連続で添加した際のレスポンスで評価。
  • Premix assay:一次抗体を固定化。抗原に対して二次抗体が飽和するようにプレミックスしたサンプルを流した際のレスポンスで評価。
  • Tandem assay:抗原を固定化。一次抗体、二次抗体を連続で添加した際のレスポンスで評価。多価抗原に有用。

図 10.Epitope Binning測定結果のビジュアル化

  • Sensorgram overlay:二次抗体添加時のレスポンス比較。ここでThresholdを設定する。
  • Heat map:一次抗体、二次抗体を入れ替えたマトリックスデータのオーバービュー。
  • Binning wheel:同じEpitopeに結合するグループを共通のBinにまとめたオーバービュー。

Epitope Binningの詳細はこちらもご覧ください。

Biacore™ Insight Concentration and Potency Extension

標品をもちいた濃度測定を行うためのExtensionです(図 11)。Biacoreでは結合活性を有したサンプルの濃度(活性濃度)の測定が可能となります。そのほか、バイオ医薬品の同等性評価などに用いられるParallel line analysis (PLA)、EC50の解析にも対応しています(図 12)。

図 11.結合活性濃度定量
上段:Serial concentration analysis。下段:Parallel concentration analysis。Biacore 8シリーズでは濃度8点の標品を一度のインジェクションで測定することができ。短時間で濃度測定を行うことができます。

図 12.Parallel line analysis (PLA)、EC50解析

  • PLA:レスポンスvs濃度が直線的な部分に関してLinear fitting を行い、x切片の違いを評価。
  • EC50:レスポンスvs濃度に対してFour-parameter fittingを行い、EC50値を算出。

Potency assay(PLA、EC50)の実施例はこちらをご覧ください。

Biacore™ Insight GxP Extension

21 CFR part 11の要件に準拠した形で、GxP規制下における測定を行う際に使用します。こちらはBiacore 1シリーズ、8シリーズのみ対応です。

  • Data integrity:
    データや測定・解析メソッドへのアクセス制御
  • User authorization levels:
    ソフトウェア機能へのアクセス権を3段階(Administrator、Developer、User)で設定。Administratorはアクセス権を制限したUser IDを発行。通常、Developerは測定・解析Methodを作成してProceduresを管理・実行。UserはProcedures実行のみ。
  • Audit trail:
    作成されたProceduresの変更点を記録、追跡が可能。Proceduresは全てのVersion履歴を維持する。
  • eSignatures:
    新規作成、変更されたProceduresや解析結果に対する電子署名。

Biacore™ Insight Data Integration Extension

LIMS、ELN の他 third-party software へデータ転送することができます。

  • 標準的に使用されるXMLやJSONフォーマットへのデータ変換。
  • データ転送には、sensorgramsや各plots の生データと解析済みのデータが含まれます。

Biacore Intelligent Analysis™

大規模なスクリーニングを行う際にボトルネックだった、大量なデータセットの評価を機械学習で実施するための機能です。2023年時点では、フラグメントのBinding Level Screen(図 13)およびAffinity Screen(図 14)に対応します。

  • 大規模なデータセットの分析時間を 80% 以上削減します。
  • 人的エラーを削減し、一貫したデータ解析で、プロジェクトやチーム全体の標準化を推進します。
  • 各データのAnnotationから、Classificationの意思決定を容易に確認、理解できます。
  • 直ぐに使用できるようトレーニング済みの機械学習モデルがプリセットされています。
  • プリセットされたモデルから追加トレーニング、また一からトレーニングを行うことも可能です。
  • 各バージョンの機械学習モデルを、インポート、エクスポート、追跡、管理するモデルマネージャー機能搭載。

図 13.Biacore Intelligent Analysis™ softwareを用いたFragment binding level screen

選択されたデータs-113(矢印)は、右下Classificationの理由からQuality = Lowと判定されている。センサーグラムの破線は、このモデルにおける理想的なセンサーグラム形状を示す。

図 14.Biacore Intelligent Analysis™ softwareを用いたFragment affinity screen

選択されたデータRTX-1055323-1は、Classificationの理由からAcceptance state = Rejectと判定されている。プロットの破線は、Constant RmaxにおけるフィッティングカーブとKD値を示す。

Biacore Intelligent Analysis™のコンセプトや開発背景は既出記事「Biacore™ のデータ解析の近未来?マシーンラーニングの可能性」をご覧ください。

その他関連動画はこちらご覧いただけます。

Biacore™ T200/S200 のデータを解析Biacore™ Insight Softwareで解析する場合や、Biacore™ T200/S200 evaluation softwareとの違いに関してはこちらをご覧ください。

その他関連情報

Biacore™ Knowledge Center