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DIGE 道場 第4回
電気泳動操作のポイント -標識からSDS平衡化まで-

第4回 もくじ

  1. はじめに
  2. サチュレーションダイによる蛍光標識
  3. 一次元目等電点電気泳動 (本ページ)
    • Immobiline™ DryStrip膨潤時の注意点
    • 一次元目等電点電気泳動の注意点
    • Multiphor II 使用時の注意点
    • 電流と電圧
  4. 泳動後の処理
    • 泳動後のIPGゲルの保存
    • SDS平衡化時の注意点
  5. おわりに

Dr. 近藤のコラム
→コラム第4回 「方法を見つける方法」

3. 一次元目等電点電気泳動

●Immobiline™ DryStrip膨潤時の注意点

IPGゲルのサンプルを添加する際に、サンプルカップを使う方法とゲルをタンパク質サンプルで膨潤させる方法とがある。どちらがいいかということについては諸説ある。

筆者は膨潤法を使っている。二次元電気泳動法を始めて最初の7年間ほどはサンプルカップを使っていたのだが、サンプルカップの位置決めがなかなか難しいこと、サンプルカップのところで沈殿が発生することなどが問題点だった。一方、膨潤法は簡便であり毎回同じように実験できることから、ルーチンに毎日実験をするうえでは膨潤法は便利である。

自分では比較したことはないが、サンプルカップを用いた方がスポットの数が多いという意見は耳にするところである。再現性を保たれたスポットの数としてはどれくらいなのか興味があるところだが、膨潤法は目をつぶって実験してもできるほど安定していることから膨潤法を採用している。

膨潤法のときの注意点は、3つある。

一つ目は、膨潤バッファー(タンパク質サンプル)の量を増やしすぎないということである。膨潤液を多く使ったからと言ってゲルに多くタンパク質が入るということはない。一定量以上はゲルに入らないので、無駄である。ゲル厚1 mm、幅3 mmと計算して必要な容量を算出する。たとえば24 cmの長さのIPGゲルならば、3 × 240 × 1 =420 µlが膨潤に必要な容量である。気持多目に使って430 µlくらいで膨潤するようにした方がよい。気持多目というのは、ウレアを含む液は粘度が高いのでピペットであまり正確に容量が取れないことから、少ないよりは若干多い方がいいかもしれない、という感覚的なものである。

二つ目は、タンパク質サンプルをできるだけ均一にIPGゲルに触れさせるということである。膨潤トレイにタンパク質サンプルを入れ、そこに乾燥状態のIPGを載せていく。そのときに、IPGゲルを何度も上げ下げして平衡化バッファーに何度も触れさせるようにする。

IPGゲルをサンプル溶液に浸す様子

膨潤液を入れたところにIPGゲルを置いてピンセットで何度か上げ下げする。液が均一にIPGゲルに触れるように。気泡が残らないようにすることは言うまでもないが、小さな気泡が数個あっても構わない。

三つ目は、IPGゲルの上に重層することになっているミネラルオイルである。膨潤トレイにIPGゲルをセットしたあとにミネラルオイルは重層しない。たいていのプロトコールがミネラルオイルを重層するようになっているようだが、筆者のラボでミネラルオイルなしに膨潤し、過去3年間で少なくとも3千枚以上は電気泳動したがまったく問題なかった。ミネラルオイルによってまだゲルに入っていない膨潤サンプルがゲルから離れてしまうことが問題である。

対策として3年以上前は上述のようにIPGゲルをセットし、1時間以上は置いて膨潤液がゲルに十分浸透してからミネラルオイルを重層するようにしていた。あるときミネラルオイルを重層しなくてもいいのではないか、ということになってしばらく試してみると問題なかったことからこのステップは省略された。ただ、過度に乾燥するとまずそうなので膨潤トレイごとにアルミホイルで上からできるだけ密封するようにし、しかもその中に湿らせたタオルペーパーを置くようにしている。特殊な装置は要らない。

遮光を完全にするためにトレイにはさらに暗箱をかぶせるようにもしている。暗箱はバイオクラフト社に依頼して作成してもらった特注品を使用している。文章に書くと手間なようだが実際には5分ほどの工程である。ミネラルオイルを神経をつかって重層したうえ、使用後の器具は時間をかけて水洗しなければならないことを考えると、結局は時間の節約になるのでミネラルオイルは膨潤には使わない方がいいだろう。


●一次元目等電点電気泳動の注意点

一次元目の電気泳動装置はMultiphor IIとIPGphor™ IIとがある。Cytiva以外の各社からも出ている。どれを使ってもおそらく構わない。Mulitophor IIを自作しようとした時期もあって、電気泳動自体はそれなりにうまくいったのだが冷却板からの液漏れを解決することがかなり難しく、Multiphor IIの価格の意味が分かった次第である。IPGphor™ IIを何台も並べて実験をしていた時期もあったが、今はまったく使っていない。これから購入されるのであればMultiphor IIタイプがお勧めである。

何が違うかと言うと、Multiphor IIではIPGゲルと電極の間にろ紙が一枚入る(後述)。電気泳動中にIPGの等電点をはずれるようなタンパク質や電荷をもった狭雑物はIPGのゲルから出ていってろ紙に吸着され、結果的によい電気泳動パターンとなる。IPGphor™ II型では電極は直接IPGゲルに接触するのでろ紙を使わない。そのため、IPGから出ていきたい物質は逃げ場がなく、電極付近に留まることになる。結果的に、電極付近で電気泳動パターンが乱れる場合がある。

IPGphor™ IIでもろ紙を電極とIPGゲルの間にかますことはできるがMultiphor IIよりかなり手間である。電圧は3500Vで十分でIPGphor™ IIで出る8000Vはいらない。Multiphor IIはパワーサプライや冷却用循環装置が外付けなので、本体自体は何をしてもまず絶対壊れないというのも長所である。

電気泳動中はMultiphor IIもIPGphor™ IIもミネラルオイルをIPGゲルの上に重層する。Multiphor IIの場合は電気泳動トレイを一つ洗浄すればいいのだが、IPGphor™ IIの場合はセラミックのトレイをIPGゲルの本数分だけ洗浄する必要があり、なかなかやっかいである。もっとも、サイホン式のピペット洗浄器を使えば自動洗浄可能で、筆者のラボでは数十本を一度に洗浄していた時期もあった。ただ、洗浄後の乾燥と収納のスペースが問題だった。Multiphor IIの短所は場所をとるということである。パワーサプライや冷却用循環装置とつながっているので実験しないときに簡単にしまうわけにはいかない。IPGphor™ IIは膨潤と電気泳動を一つの容器の中で行うので楽なのだが、Multiphor IIの場合は膨潤したゲルをいちいちトレイに移すという操作が必要である。

電気泳動がうまくいかないからIPGphor™ IIからMultiphor IIに買い替える、というのは一般にはお勧めしない。IPGphor™ IIでうまくいかない実験がMultiphor IIならうまくいく、という事態は想定し難いからである。これから購入される方は上述のようにちょっとしたデータの質と簡便性の差を考慮されるといいのではないかと思う。


●Multiphor II 使用時の注意点

第一のポイントは電極ろ紙の湿り具合である。ミリQ水を使ってろ紙を湿らせるのだが、しっかり水切りが必要である。具体的には、濡らした電極ろ紙を乾いたろ紙(ワットマン3Mなど)に挟み水分を吸収させるという操作を、乾いたろ紙に水の跡がつかなくなるまで何度も行う。電極ろ紙の最終的な湿り具合は「羊羹の切り口」くらいである。

一次元目の電気泳動で誰もが経験する失敗は、電極ろ紙の接触不良あるいは電極線のつなぎ忘れである。電極ろ紙をIPGゲルのできるだけぎりぎり端にセットして上から電極をあてるのだが何かの拍子に電極がろ紙からずれてしまうことがある。あるいは、電気泳動トレイをセットするときに、トレイについている短い電極線を本体に差し込むのを忘れたり、差し込みが不十分だったりすることがある。最初はこのような失敗はないのだが慣れたころに発生する失敗である。

さらに、使用頻度やトレイのロットによってはトレイから出ている短い電極線がビニールの被覆の中で断線することもある。これは見ただけでは分からないが何となくぶらぶらした感じがしたら要注意である。対策としては電気テスターを使用する。トレイをセットしたあと、ミネラルオイルを入れる前に陽極と陰極にテスターをあてて抵抗を測定することを習慣づける。普通はメガオームの単位の抵抗値が測定される。もし抵抗が無限大ならば電極ろ紙の接触がわるいかどこかで断線していると考えてチェックする。ミネラルオイルを入れたあとだと電極ろ紙の修正が難しい(周囲にオイルが散って汚れる)。

電気テスターは抵抗が測れればいいので、一番安いもので構わない。1000円くらいだろうか。いちいち測定するのは手間なようだが、実験台の引き出しから取り出して測定し終えるまで10秒もかからない。「年一回程度の失敗に対してそこまでするか」と思われるかもしれないが、一晩の安心感を買うつもりで試してみられることをお勧めする。


●電流と電圧

どの電気泳動もそうなのだが、パワーサプライのスイッチを入れた後はしばらく電気泳動の具合を観察する方がよい。何を観察するかであるが、等電点電気泳動の初めは若干電流が流れてしばらくすると測定限界の下限を下回って0になる(注2)。初めにまったく電流が流れないというのは何かしらのトラブルを疑う。電気テスターで抵抗を測定していれば問題ないはずだが、測定していない場合は接触不良の可能性がある。

また、Multiphor IIのふたを閉める時に電極がずれている可能性もあるのでパワーサプライをいったん止めて、電線の端で抵抗を電機テスターで測定する。

電流が流れすぎている場合もあって(通常の実験ではないのだが)リミッターがきいたために電圧がかからない場合もある。それは塩濃度が高い場合に起こりうる。いろいろな分画をとるような実験をしている場合に分画ごとの塩濃度が分らなくなることがあり、そういう場合に起こりうる問題である。電流が流れすぎている場合には修復のしようがないのであきらめるしかない。

ちなみに、1Mの塩濃度をもったサンプルで膨潤させたIPGゲルを電気泳動すると、ミネラルオイルに浸ったIPGゲルから線香花火のような火花が出ることを経験している。IPGゲルの下に敷いたビニールの板は焦げてしまったがMultiphor IIはここまでしても壊れなかった。以来Multiphor IIには信頼を置くようになった

一次元目の電気泳動中はMultiphor IIごとアルミホイルで包んで遮光している。

遮光泳動中のMultiphor II

遮光泳動中のMultiphor II

CytivaではMultiphorIIの遮光のためには、アルミホイルの変わりに黒いビニールシートの利用を推奨している。高電圧(最高で3500V)がかかる部分なので、万が一を考えてということらしい。実際にはその危険性はほとんどないように見えるのだが、一応そういう意見があるということを紹介しておく。一方、IPGphor™シリーズの泳動装置の遮光にはアルミホイルは「禁忌」である。筆者も経験したのだが、理屈は分からないが、とにかくアルミホイルで包んで泳動すると何故か故障する。IPGphor™シリーズには専用の遮光カバーが附属しているので、そちらを利用されたい。

アルミホイルに包まれた中がどうなっているかこの時点では見ても仕方がないのだが、あえて覗いてみると蛍光色素で標識されたタンパク質が等電点に収束している様が見える。このようなバンドがまったく見えないとしたら何かしら問題である。接触不良あるいは塩濃度が高すぎて電流が流れすぎたためにリミッターが働いてしまい電圧がかかっていないことを疑う。

標識サンプル泳動後のIPGゲル-

標識サンプル泳動後のIPGゲル

電気泳動されるタンパク質のバンド。蛍光色素のために目視できる。


注釈

注2:EPS 3501XL(Cytiva社)を使用する場合。この機種は高電圧・高電流が出て、プログラムが組めて、しかも低電流をモニターできるという優れものである。これから購入される方にはお勧めである。パワーサプライによっては低電流が測定できず、等電点電気泳動の最初の低電流が分らないこともある。

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