DIGE 道場 第4回
電気泳動操作のポイント -標識からSDS平衡化まで-
第4回 もくじ
- はじめに
- サチュレーションダイによる蛍光標識 (本ページ)
- 一次元目等電点電気泳動
- Immobiline™ DryStrip膨潤時の注意点
- 一次元目等電点電気泳動の注意点
- Multiphor II 使用時の注意点
- 電流と電圧
- 泳動後の処理
- おわりに
Dr. 近藤のコラム
コラム第4回 「方法を見つける方法」
2. サチュレーションダイによる蛍光標識について
●蛍光標識時に守らなければならない点
タンパク質サンプルの標識については試薬濃度、反応時間ともにCytivaの推奨する方法で行って問題ない。少しくらい違っていてもいいだろう。蛍光標識について条件検討の重要性が強調されているが、実はそれほど神経質になる必要はないのではないかと思っている。タンパク質の絶対量(厳密には標識されるアミノ酸の数)に比べて圧倒的に多量の蛍光色素を入れているので、標識時間、温度、pHを守っていれば蛍光色素の量は標識にはそれほど影響しない。pHだけはしっかり守ることが必要である。サンプル量が少なすぎて当然ながらpHメーターは使えないのだが、最終濃度が30~50 mMになるような濃度でTrisバッファー(pH8.0)を加えるとちょうどよいpHになる。ラベルがうまくいかないとき(ぜんぜんスポットが見えないとき)はたいていpHに問題がある。気になるときはpH試験紙でチェックするとよい。
pHと並んで注意する点は、塩濃度である。塩濃度(トリス濃度)30 mM前後で標識し、標識あとに希釈して膨潤サンプルとする。ゲルに添加するときの塩濃度は10 mMを絶対に超えないように、できれば5 mM以下になるように調整する必要がある。これは一次元目の電気泳動に確実に影響する。血清サンプルを対象として陰イオン交換などの液クロで分画をとることがあるのだが、そのような場合に高塩濃度のサンプルが発生する。ゲルろ過すればいいようなものだがサンプルのロスや増えてしまうボリュームを考えるとできれば避けたい。遠心濃縮で容量を落として希釈することで塩濃度を落とすのが無難である。通常、組織からタンパク質を抽出する場合には塩濃度は問題にならない。
塩濃度の調整はそれほどむずかしいわけではない。たとえば、標識を終えた時点でのサンプルの容量が50 μlとするプロトコールがあったとしよう。そのときに塩濃度が30 mMだとする。長さ24 cmのIPGゲルに添加する場合、膨潤法だと430 μlまで容量を増やすことになる(後述)。そうすると、塩濃度は30×50/430と計算され、10 mMを下回ることになる。短いゲルを使う場合には分母の430が小さくなるので最終の塩濃度は上がることになる。たとえば長さ11 cmのゲルなら膨潤液の容量(常識の分母)は上述の11/24と計算されるので、最終の塩濃度は増えることになる。そうであれば、標識を終えた時点でのサンプルの容量がもっと少なくなるように調整すればよい。
●標識時のひと工夫
標識するときの工夫を一つご紹介する。サチュレーションダイを使用する場合、37℃でTCEP(Tris[2-carboxyethyl]phosphin)を使って1時間かけて還元し、次に37℃で30分かけて標識する。そのときに、37℃で静置させておくと色素が浮いてしまうので10分ごとにタッピングしていた。
しかし考えてみるとタッピングの都度サンプルは室温に戻るので、あまりよい操作ではなかった。それで写真のような装置を使うようにしている。この装置は複数のチューブを振とうしながら37℃で温めるための装置である。これを使ったからと言ってデータが変わるというものでもないのだが、10分置きにタッピングするという操作からは解放された。
標識するときの装置
実際にはアルミホイルで機械を覆い遮光した状態で標識する。(エッペンドルフ社製、Thermomixer comfort)
レーザーマイクロダイセクションで回収したサンプルを標識する場合には、回収された組織片はフィルムに接着している(フィルムに組織を張り付けるタイプの場合、第3回「できるプロのタンパク質抽出術」参照)。37℃で還元剤と共に振とうすることでタンパク質が溶出されてくるようなので、震盪操作は必要である。サンプルがキャップの方についている タイプのレーザーマイクロダイセクションの場合は、チューブをさかさまにして振とうする必要があることからエアーインキュベーターを使っている。しかし普通のサンプルの場合はご紹介した機械(上写真)の方がコンパクトで使い勝手がよい。
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