DIGE 道場 第6回
ゲルボックスを使ったSDS-PAGEゲル作製の実際
第6回 もくじ
- はじめに
- Ettan™ DALTtwelveのためのゲル作製 1 (本ページ)
- Ettan™ DALTtwelveのためのゲル作製 2
- 巨大ゲル用のゲルボックスの使用法
- おわりに
Dr. 近藤のコラム
コラム第6回 「二次元電気泳動は何をみているのか?」
2. Ettan™ DALTtwelve のためのゲル作製 1
まずはEttan™ DALTtwelve 用のゲル作製(Ettan™ DALT Gel Casting Cassette 1.0 mm コード番号:80646684、Ettan™ DALTtwelve Gel Caster コード番号:80646722)の実際を写真入りで紹介する。専用のゲルボックスはガラス板、塩化ビニル板、スポンジなど消耗品一式含めてCytiva社から購入することができる(Ettan™ DALT Gel Casting Cassette 1.0 mm コード番号:80646684、Ettan™ DALTtwelve Gel Caster コード番号:80646722)。
ゲルボックスの外観
購入したときにはゲルボックスは無色透明なのだが、だんだん白っぽくなってくる。ゲル溶液を注ぎ込んだあとに上から重層する2-ブタノールのためである(後述)。100回も200回も使いこむとアクリルの板に細かいひびが必ず発生するので、時々アクリルの板の端材で補強するようにしている。その辺りの細かい修理はバイオクラフト社が得意としている。オンサイトでも修理してもらえることもあるので、実験が立て込んでいるときは心強い存在である。
あらかじめ大型トレイにゲルボックス全体を入れておく。後に重層する泳動用のバッファーがあふれたときなどに備えてであるが、こうしておけば実験台の上を滑らせて移動できるので便利だというのが主な理由である。このゲルボックスに塩化ビニル板、ガラス板・スペーサー付き、ガラス板・スペーサー無し、塩化ビニル板、と交互に入れていく。ゲル箱の右下には三角に切ったスポンジが詰めてある。右側に取り付けられた煙突みたいな部品の上からゲル溶液をポンプで注ぎ込み、チューブを通ってゲル溶液がゲルボックスの下から入っていく構造になっている。その際、混入した空気をトラップするか、泡をこなごなに砕いてしまおうという考えでここにスポンジが置かれている。
塩化ビニル板の外観
厚い塩化ビニル板と薄い塩化ビニル板と2種類ある。オペレーターの手前にあるのが厚い方である。最初にセットする塩化ビニル板はゲルボックスにより密着してしまうので、ゲルができてゲルボックスからゲルを回収する際に力を入れてはがすことになる。薄い塩化ビニル板では力を入れにくく、うまくはがすことが難しい。したがって、まずセットするのは厚い方の塩化ビニル板である。
70%エタノールをガラス板に噴霧してふき取ることでほこりを除去する。ガラス板はあらかじめ水道水と超純水で洗浄し(洗剤は厳禁)、風乾しておく。保管には専用のガラス板立てが便利である(Ettan™ DALT Cassette Rack コード番号:80646798)。ここでエタノールを使うのは、乾燥が早いことと、保管中に万が一付いてしまっているかもしれない指からの脂肪分を除去するためである。
蛍光色素を含まない低蛍光ペーパータオルでエタノールを拭き取る。このとき拭き取る方向性を決めるようにするとよい。ガラス板の端に割れや傷があったりするとそこにペーパータオルがあたってしまい、「けば」がガラス板の表面につくことがある。当然うれしくない。そういうときはエタノールの噴霧からやり直す。よく観察していたむ前にペーパータオルを交換するとこのトラブルを防ぐことができる。低蛍光でない普通に売られているペーパータオルやテッィシュペーパーは使用厳禁。レーザーでガラス板をスキャンすると拭いた後がばっちり検出されてしまい、画像解析ソフトがスポットのシグナルと同様にひろってしまう。
次々と塩化ビニル板とガラス板を詰め込んで行く。左寄せにしておくことがポイント。
適宜体重をかけて一枚一枚ガラス板を押さえるようにする。この操作は重要である。ゲル作製用のスペーサーは片側のガラス板に固定して市販されているものを使用している(Ettan™ DALT LF Glass Plate Set, including spacers(蛍光検出用低蛍光ガラスプレート) コード番号: 80647558)。もう片側のガラス板とスペーサーは単に接触しているだけである。したがって、しっかり密着していないとスペーサーとガラス板の隙間に後から注ぎ込むゲル溶液がわずかに入り込んでしまう。そうするとそのゲル溶液を通って電流が外部の泳動バッファーにリークしてしまい、ゲルの端で泳動が乱れることになる(Ettan™ DALTtwelve はボチャ付けタイプ*の泳動装置なので)。この問題が発生する頻度はそれほど高いわけではないのだが、ゲルボックス作製のときには密着するように押さえてやることで予防できる。
*ボチャ付けタイプ:ゲル全体を泳動バッファーで冷却するタイプ
すべて詰め終わったところ。ガラス板のセットが14組入るようなサイズになっている。最後に面(ツラ)が合うように塩化ビニル板を適切な枚数に調整する。塩化ビニル板の枚数が少ないと蓋との間に隙間ができてしまい、前述のように泳動時に電流リークのトラブルが発生する。一方、多すぎると蓋が完全に閉まらず、ゲル溶液が漏れる。最後の塩化ビニル板をセットするときに、軽くエタノールをつけて密着させるようにする。そのままだと蓋を取り付ける前に下にずり落ちてしまう。
ガラス板と塩化ビニル板を詰め終わったゲルボックスに蓋をしていく。溝があらかじめ切ってある蓋(アクリルの板)にスポンジ性のチューブをはめ込む。無理に引っ張ったり押したりするとチューブの厚さ・幅が変わってしまうので、自然に軽く押し込むようにする。溝よりも極端にチューブが長くなっている場合は、引っぱり過ぎている可能性が高いのでやり直す。ゲル溶液が蓋のところから漏れるとどうにもリカバリーできないので、ここはDIGEなポイントである。漏れ防止専用のグリスなども販売されているのだが、特に必要ない。使っても害はないが、べちゃべちゃと余計なところ(特にガラス板)につくと洗浄が面倒なのでお勧めしない。
付属する大型のねじを使って蓋を固定したところ。均一に締まるようにだいたい対角線上に順に締めていく。適当な力で締めれば上述のチューブの弾力でうまくシールできる。力を入れすぎるとかえって漏れる頻度が上がるような印象である。また、締めすぎると蓋にひびが入りやすくなり、ひびが入ればそこからゲル溶液が漏れることになる。締めすぎるとシールチューブの耐久性が落ちるとの意見もある(未確認)。
ゲルボックスを立てたところ。最後に詰める塩化ビニル板の枚数が足りないと、立てたときにガラス板が動いてしまう。その場合、前述のようにスペーサーとガラス板の間に隙間ができてしまっているわけで、トラブル発生の可能性がある。あらためて寝かせてふたをあけ、塩化ビニル板を追加して締め直す。それほど手間ではない。ここまでの作業が通常は30分コースである。
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