Biacore測定の成功の鍵:固定化
Biacore™をもちいて分子間相互作用を測定する場合、一方の分子であるリガンドをセンサーチップに固定化することがはじめのステップになります。そして、流路系を通じてアナライトとの相互作用を測定していきます(Fig. 1)。
Fig.1Biacoreの固定化および測定の概略図(a直接法、bキャプチャー法。)
たくさんのリガンドが固定化できれば、それだけたくさんのアナライトが結合できるので、精度よく測定ができると考える方がいるかもしれません。実際の固定化の考え方はどうでしょうか?
固定化にはFig.1のように直接法とキャプチャー法があります。それぞれのPros/Consはなんでしょうか?
今回は大きくこの二点について考えていきたいと思います。
固定化の考え方
はじめに結論からお伝えすると、Biacore™ での固定化では、活性を保ったリガンドを適切な量だけ固定化することが大切です。たくさん固定化することが必要なケースはほとんどなく、チップ上の活性量が重要となります。
「活性を保ったリガンド」を固定化するには、1つ目として、活性濃度が確認されたタンパク質であることが重要です。タンパク質の濃度定量は吸光度を指標にした測定を行うことが多いですが、これはタンパク質の全量であり活性濃度ではありません。タンパク質の調製時にはその活性が十分に保たれる方法を選択することが前提になります。
「活性を保ったリガンド」を固定化するには、2つ目として、固定化方法の選択が重要です。Fig.1の通り、固定化方法には大きく分けて直接法とキャプチャー法があります。直接法では、ほとんどの場合、アミンカップリングによりセンサーチップへタンパク質を共有結合させる方法をとります(Fig.2)。
この際、pH 4.0~5.5程度の酢酸バッファーでリガンド分子を希釈します。センサーチップ表面はカルボキシメチル基で負に荷電しているため、リガンド分子を等電点よりも0.5~2.0程度低いpH溶液で調製することで正に荷電させ、静電的にチップ表面にリガンド分子を濃縮させるためです(プレコンセントレーション効果)。
アミンカップリングにおいては、この酸の影響よって、リガンド分子がある程度失活してしまうリスクがあります。その場合、Biotinなどのタグを付加させてキャプチャー法を行っていただくことが望ましいです。
Fig.2アミンカップリングによるリガンドの固定化
センサーチップ表面のカルボキシメチル基をEDC/NHSで活性化させ、リガンドの一級アミンを共有結合させます。その際リガンド分子は酸性バッファーで希釈することがあります。
Biotin化したタンパク質の固定化は非常に安定しており、また、Sensor Chip SA、Sensor Chip NA(Series Sのみ)、Biotin CAPture Kitと選択肢が豊富であるため、タンパク質、低分子、核酸など幅広く活用されています。Biotin化の方法は、精製されたタンパク質に対して後から修飾する方法と、Avi-tag発現系を用いる方法があります。前者は既に手元にあるタンパク質に対してランダムにBiotinを付加させますが、発現系を用いることで固定化した際の分子の配向性を揃えることも可能です。「活性を保ったリガンド」をきれいに固定化するには、後者の方が望ましいと考えられます(Biotin化に関する【補足情報】は下記)。
続いて、「適切な量だけ」を固定化するには、アプリケーションごとに考える必要があります。
特異的結合を確認する(Yes/Noのスクリーニングなど)、濃度定量を行うなどに関しては、比較的固定化量を多めにしたいただきます。また、KD値のみをアフィニティー解析(平衡値解析)で算出する場合には、レスポンスが確認できるレベルであればあまり固定化量を気にしていただく必要はありません。ただし、カイネティクス解析でka、kdを算出する際には、固定化量をできる限り低くします(Fig.3)。
これはマストレンスポートリミテーション(MTL)によるセンサーグラムの変形を可能な限り抑えるためです。MTLは、リガンドの固定化量が多いことでアナライトの供給が追いつかずに消費速度が上回る現象です。(MTLに関する【補足情報】は下記)。
カイネティクス解析における固定化量の目安や、実測Rmax(アナライトを添加した時、結合量が飽和する レスポンス(RU))から固定化量を見積もる際の計算式はFig.3の通りです(Rmaxに関する【補足情報】は下記)。
Fig.3固定化量の設定の考え方
直接法とキャプチャー法、それぞれのProsとCons
前述の通り、固定化方法には大きく分けて直接法とキャプチャー法があります。チップ上のリガンド活性量を維持するためには、一般的にキャプチャー法を採用する方に大きなメリットがあります。それぞれのProsとConsについてTable 1にまとめました。直接法は古典的な方法で、参照論文も多いですが、固定化時の酸に伴う変性や再生条件の検討が必要となるため、特に新たに実験系を立ち上げる場合の確実性が低い手法になります。それに対して、キャプチャー法は固定化によるリガンド失活のリスクがほとんどなく、再生条件の検討も不要となるため、測定系の立ち上げが容易です。
Table 1:直接法とキャプチャー法
直接法(アミンカップリング) |
キャプチャー法 |
|
Pros | 古典的方法。 |
固定化によるリガンドの失活リスクがほとんどない。 |
Cons | リガンドの固定化時の酸に伴う変性。 |
固定化量が比較的少ない(多くの場合問題ない)。 |
特にBiotin化は汎用性が高く、再生不要な低分子化合物などの場合、また、リガンドの消費量を気にされる場合は、Sensor Chip SAまたはSensor Chip NAに対してリガンド分子をしっかりと固定化します。再生が必要な測定系の場合はBiotin CAPture Kitを用います。
活性を保ったリガンドを適切な量だけ固定化することで、より信頼性の高いBiacore™の測定を行ってください。
補足情報
- リガンドタンパク質のBiotin化については、「初めてBiacore™実験ノート」 タンパク質(ペプチド)―タンパク質の相互作用6ページをご参照ください。
- Avi-tagを用いた発現系に関しては「一般社団法人 日本蛋白質科学会 Web サイト:妹尾暁暢ら, 蛋白質科学会アーカイブ, 13, e096 (2020)」がご参考になるかと思います。
- マストレンスポートリミテーション(MTL)に関して、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
- Rmaxについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。リガンドの結合活性率の算出にもRmaxは使用されます。
- さまざまなセンサーチップの種類と、その使い分けの一覧に関しては、こちらの記事をご覧ください。
- 測定系の立ち上げが容易なBiotin CAPture Kitに関しては、こちらの記事をご覧ください。
- 各種センサーチップや固定化方法のより詳しい情報に関しては、アップデートしたBiacore™ sensor surface handbookをご覧ください。