ウェスタンブロッティング こんなときどうする?(5)
~1枚のメンブレンから2種類の抗体でタンパク質を検出したい~
回答:ウェスタンブロッティング担当
「1枚のメンブレンから2種類の抗体で検出を行う」際の手順について解説いたします。
特に、貴重なサンプルを扱っている場合や、どうしても同サンプルから複数タンパク質の発現比較を行いたい場合などには、一度抗体反応(検出)を行ったメンブレンを再利用する手法がとられます。
ECL™シリーズを利用した化学発光検出における手順を2パターンに分けて紹介すると共に、最後に蛍光ウェスタンブロッティングについて触れさせていただきます。
- 一次抗体が異なる動物種由来である場合
- 一次抗体が同じ動物種由来である場合
- 蛍光検出を利用した多重検出
1. 一次抗体が異なる動物種由来である場合
例: 最初の抗体検出に用いる一次抗体がマウス由来であり、次の抗体検出に用いる一次抗体がウサギ由来である場合
一般的な手順 (一次抗体が異なる動物種由来である場合)
- 抗体検出後のメンブレンをPBS-T、またはTBS-T で洗浄する
- 再度、ブロッキング処理 (5%ブロッキング剤/5% スキムミルク in PBS-T or TBS-T)
- 次の一次抗体反応(リプロービング操作) ~ 検出まで
一次抗体が異なる動物種由来である場合は、特に最初に反応させた抗体をメンブレン上から除かなくても、二次抗体の反応性に影響を与えることはありません。そのため、最初の抗体検出が終わった後、メンブレンをバッファーで洗浄して、ブロッキングからやり直すことで、リプロービング(=異なる抗体を反応させる操作)することができます(図1)。
注意点としては、最初の検出で用いた二次抗体に結合したHRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)は完全に失活しないため、2度目の検出時にこの抗体由来のシグナルが検出されることがあります。目的タンパク質の分子量が予測できる場合には、検出されるシグナルを判別しやすくするために、目的タンパク質同士ができるだけ分離できるよう電気泳動時のアクリルアミドゲル濃度を調整しましょう。また、2度目の検出で最初のバンドを検出したくない場合にはHRPを失活させる方法もあります。
図1 リプロービングの流れ
2. 一次抗体が同じ動物種由来である場合
例: 最初の抗体検出に用いる一次抗体がマウス由来であり、次の抗体検出に用いる一次抗体もマウス由来である場合
一般的な手順 (一次抗体が同じ動物種由来である場合)
- 抗体除去バッファー* で処理 *2% SDS, 100 mM 2-mercaptoethanol, 62.5 mM Tris-HCl, pH6.7
- 50℃、30分、振とう
- PBS-T、またはTBS-T で洗浄 (10分 ×2)
- 再度、ブロッキング処理 (5%ブロッキング剤/5% スキムミルク in PBS-T or TBS-T)
- 次の一次抗体反応(リプロービング操作)~検出まで
一次抗体が同じ動物種由来である場合は、最初に反応させた一次抗体と二次抗体をメンブレンから除去する必要があります(図2、3)。抗体除去のステップでは、SDSと還元剤が含まれたバッファー(組成は上記の手順を参照)を用い、抗体を変性させます。タンパク質やメンブレンを厳しい条件にさらすことになるため、この操作を行う際にはタンパク質の吸着度がより高いPVDFメンブレンを使用します。Hybond™-ECL™ のようなニトロセルロースメンブレンは材質が弱いため、抗体除去処理には適していないことを覚えておきましょう。
メンブレンが乾燥すると、メンブレンから抗体を除去しにくくなります。操作中は、メンブレンが乾かないように特に注意します。別の日に抗体反応を予定している場合には、湿らせた状態で冷蔵保存します。
Hybond™-P などのPVDFメンブレンを用いた場合でも、抗体除去処理の際には、メンブレン表面上のタンパク質は多少除かれるため、リプロービング後の検出感度は低下します。そのため、貴重な抗体を用いる検出や、発現量の少ないタンパク質の検出を、最初に行うことをお奨めします。また、抗体除去が不完全な場合には、最初の抗体反応由来の偽シグナルが検出されます。その場合は、抗体除去処理時のインキュベート温度を70℃に上げることで、改善されることがあります。
ECL™ PLus では、化学発光検出時と同様の手順で化学蛍光検出を行うことができます。ECL™ PLus による蛍光検出で複数の抗体反応を検出する場合には、最初の抗体反応で残留する蛍光シグナルを抑えるため、上述の抗体除去ステップを行う前に100%アセトニトリルで10分間インキュベートします。
図2 抗体除去の流れ
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a) ラット腎臓抽出液を電気泳動し、
ブロッティング後ECL™ 検出しまし
た。
一次抗体: mouse monoclonal antiactin
二次抗体: HRP-conjugated antimouse
IgG
フィルム:Hyperfilm™
露光時間:15 秒間 |
b) a のメンブレンから抗体を除去し、
再度ECL™ を反応させて抗体がはが
れたことを確認しました。
フィルム:Hyperfilm™
露光時間:1 分間 |
c )I: a のメンブレンを抗体除去
後、mouse monoclonal anti-
β tubulin とHRP-conjugated
anti-mouse IgG でβ tubulin を検
出しました。
II: a のメンブレンのactin を再検出
III: 位置確認のためにβ tubulin と
actin を同一メンブレン上で検出 |
図3 抗体除去を行った例
actin の検出(a)を行った後にメンブレンから抗体を除去し、二次抗体がはがれたことを確認しました(b)。
その後、別の抗体を用いて検出しましたがactin のバンドが出てこなかったため(c-I)、一次抗体もメンブレン
から完全に除去できたことが分かりました。また、tubulin も問題なく検出できました(c-I)。
3. 蛍光検出を利用した多重検出
1枚のメンブレンから2種類以上の抗体検出を行う場合に、非常に便利なツールが蛍光検出です。蛍光検出を用いたウェスタンブロッティングでは、以下のような利点があります。
- 一度の操作で複数の抗体による多重検出が可能
- 泳動パターンに依存せず、各抗体反応シグナルを分離して検出可能
- 定量ダイナミックレンジが広く、精度の高い定量比較が可能
詳細につきましては、ECL Plex™の概要や解析例を紹介している下記の記事をご覧ください。
ECL Plex™ 蛍光ウェスタンブロッティングを使った多重検出アプリケーション
ウェスタンブロッティングに関する疑問にお答えします!
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