平衡化のトラブルとはSDS化のトラブルで、スポットが縦方向にストリーキングする。この現象が発生するのは主にアルカリ側の中~高分子領域、スポットが比較的密集しているところである。
図7 SDS平衡化がうまくいっていないパターン例
縦方向の収束がわるい例。このようなパターンをみたら平衡化不十分を疑う。
SDS化がまったくされない場合はタンパク質の本来の荷電を反映した泳動パターンになるのだが、それでは分子量に比例した泳動度にならないのでSDS化するわけである。SDS化は100%起きるように過剰のSDSが平衡化バッファーには入っているのだが、本来はタンパク質のSDS化は室温では時間がかかる。SDS-PAGE用のサンプルを95℃で温めるのは反応速度を速めるためなのだが、二次元電気泳動の平衡化の場合はたかだか室温で20分である。もともと少々無理なことをしているわけである。
平衡化のトラブルを再現性よく防ぐための工夫として、平衡化反応の温度以外にさらに3つのポイントを挙げておく。再現性がよくないトラブルを解決するために考えた工夫なので、無視すると絶対に失敗するというポイントではない。
ポイント1 ゲルをシャーレ底面まで落とす
まず、IPGゲルはシャーレの底面まで落とし込んでおく。シャーレを実験台に打ち付けて落とすと簡単である。操作しやすい。IPGゲルがシャーレの上の方にへばりついている場合、IPGゲルが平衡化バッファーに浸っていない時間が発生するためか平衡化不良が発生しやすい。ピンセットなどを使うとゲルをうまく操作できなかったりゲルを傷つけてしまったりすることがあるので注意。
図8 遮光用の暗箱にシャーレを入れたところ
IPGゲルがシャーレの側面のやや上方にへばりついている。このままでは平衡化バッファーに浸からない部分、浸る時間が短い部分が発生する。
図9 遮光用の暗箱にシャーレを入れたところ
IPGゲルを下まで落とし込んだところ。この状態にしてから平衡化バッファーを入れる。
ポイント2 十分量の平衡化バッファーを使う ※10 cmシャーレの場合は “20 ml” に
次に、10 cmシャーレの中で反応させる場合、平衡化バッファーの量は20 ml必要である。バッファー量を10 mlにして振とうすると、シェーカーの速さによってIPGゲルが平衡化バッファーに浸っていない時間が発生するためか、トラブルが発生しやすい。
また、20 mlあると言っても泡だらけでは問題である。SDSが入っているので乱暴に平衡化バッファーを入れると泡が出てしまうのだが、そうすると平衡化が均一にならない可能性があるので注意する。
図10 20 ml対応ピペッター
20 ml注ぐことができるピペットも市販されている。泡が立たないように丁寧に、かつ素早く平衡化バッファーを吸って吐く。
ポイント3 振とうに使シェ-カーは平行に動くものを使う
振とうに使うシェーカーだが、平行に動くものが必要である。左右上下に斜めに動くタイプだとIPGゲルが平衡化バッファーに浸かっていない時間が発生するためか平衡化不良が発生しやすい。
図11 シェーカー
よくあるシェーカー。あまり凝ったものは要らない。