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DIGE 道場 第10回
成功するIn-gel digestion法 ~実践編~

第10回 もくじ

  1. はじめに
  2. In-gel digestion操作 1日目(その1)
  3. In-gel digestion操作 1日目(その2)
  4. In-gel digestion操作 2日目
  5. 最後に: In-gel digestionのポイント (本ページ)

Dr. 近藤のコラム
→コラム第10回 「画像解析ソフトウェアはどれがいいのか」

5.最後に:In-gel digestionのポイント

プロトコールのポイント

プロトコールのポイントとしては、脱水と膨潤をしっかり行い電気泳動に由来するバッファーやデタージェントをしっかり除くことである。ZipTip™(ミリポア社)を使っても除去は可能だが、ZipTip™ではペプチドの回収率は時としてかなり低い。ZipTip™を省略する方法として本プロトコールを使っている。

LC-MS/MSだからZipTip™が不要というわけではなく、oMALDI QSTAR(アプライドバイオシステムズジャパン社)を使っていたころも同じプロトコールを用いZipTip™なしでまったく良好な結果を得ていた。ゲル片をしっかり洗うことでZipTip™と同様の操作を行っているわけである。

操作上のポイント

よい結果を得るための操作のポイントとしては、今回のオペレーターの常広氏によると、「メトロノームのように一定に」ということらしい。個々の操作を一定のペースで行うように心掛ける。結果的に全行程がいつも同じくらいの長さで終わるようになる。ここで言う「よい結果」とは、同定率が高いこと、質量分析のトラブルが少ないことを意味している。

これはin-gel digestionに限らず二次元電気泳動など他の実験にも通じることで、リズムをくずすような動作(たとえば段取りがわるくて必要な試薬を実験中に探したりすること)をしていると、プロトコール通りに実験をしているつもりでもうまくいかないことが多い。「メトロノーム」の話をある外科の教授にすると、「体内メトロノーム」は外科医にとっても重要だとのことだった。ショパンも練習のときにはかならずメトロノームを使用するようにと弟子たちに指導し、自身も頻繁に使っていたと本で読んだことがある。柔道の打ち込み練習もメトロノーム的である。おそらく高度な技術に共通する秘訣なのだろう。

in-gel digestionでもっとも多いトラブルはケラチンのコンタミである。クリーンベンチ、白衣、手袋、マスク、帽子と備えていてもケラチンコンタミは発生する。ケラチンは我々の全身から発生しており空気中にも浮遊しているので、質量分析装置の検出感度が高ければケラチンコンタミを完全になくすことは難しい。ふだんの心がけとして、作業スペースをいつもきれいに保つようにする。たとえば、頻繁に50% エタノールで拭くなど。また、クリーンベンチのフードの開閉は最小限にすることも、コンタミトラブルの頻度を下げるために役だつ。このような注意事項を記憶するより、想像力を働かせ、「そこら中にケラチンがある」という想定のもとに論理的に対応することが重要である。

質量分析のトラブルについて

常広氏がプロジェクトに参加してから質量分析のトラブルが極端に減少している。その理由の仮説としては、今までの機械のトラブルはin-gel digestionの過程で発生する超微細なゲル片だった可能性を考えている。

スポットピッカーで回収したスポットは球形ではなく角ばっており、弾力もそれほどあるわけではない。そのスポットに高濃度の有機溶媒をかけて脱水したりバッファーを加えて膨潤させたりする操作を繰り返すので、ゲル片はもろくなっている。トリプシンを加える前の洗浄の段階で本体のスポットから発生した超微細なゲル片は除去され、廃液入れの中には細かいゲル片が目視できる。そのようなゲル片が除去されずに液クロに打たれればトラブルを引き起こすことは想像に難くないので、洗浄の段階でしっかり除かれることが望ましい。洗浄の段階でピペット操作をラフに行いゲル片をチップで突き刺してスポットを割ったりすると、細かいゲル片が通常以上に発生してしまうので注意が必要である。

次に、トリプシンをかけてタンパク質をペプチド化した後の操作としても、無神経にチップの先端がゲル片に触れるような操作はトラブルの元になり、細かいゲル片を発生させてしまう。ペプチドを回収する段階では2回の脱水が比較的低いアセトニトリル濃度で行われるだけなので、本来は微細なゲル片はほとんど発生しないはずである。慣れてくるとピペット操作の際に、細かいゲル片の発生に由来すると思われる液体の粘調度の変化がわかるようになる。ゲル片にチップの先端が触れないように注意することは、ゲル片が知らない間になくなってしまうというトラブルの防止にもなる。複数の96ウェルプレートを用いたかなりの回数のピペット操作において目に見えないゲル片の発生を想定して常に注意を払うことにはかなりの集中力を要するのだが、よい結果を得るためには必要な能力である。「プロトコールは楽譜」であり、よいプロトコールは一定レベル以上の結果をコンスタントに保証する。しかし、いかによいプロトコールであっても高いレベルでは個人差が存在する。

本プロトコールでの同定実績を公開しています

掲載したプロトコールで同定したタンパク質は公開データベースGeMDBJ Proteomicsでみることができる。現在のところ2215スポットに対する同定情報が公開されており、近日中にもう1000スポット分のデータが追加される(内部サーバーには登録済み)。データベース中の画像上で米印(*)のマークのついたスポットをクリックすると、同定されたタンパク質や同定の根拠になったペプチドの情報をみることができる。自分が目的とするスポットがデータベースにすでに掲載されていたりするかもしれない。in-gel digestionを行う前に、どうか一度ご覧になってください。

近藤 格

Dr. 近藤のコラム 「2D-DIGE の熱い心」

→コラム第10回 「画像解析ソフトウェアはどれがいいのか」


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