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ブロッティングとは

電気泳動後のゲルからメンブレンにタンパク質を転写(ブロッティング)する方法をご紹介します。メンブレンにブロッティングする とことで取り扱いが楽になり、さらにサンプルと抗体とが反応しやすくなります。

ブロッティングの原理

ブロッティング=転写とは電気泳動の後、ゲル中のタンパク質を移動させ、メンブレン上に固定させる操作です。 タンパク質の拡散を防ぐ、物理強度が高く取り扱いが容易である、抗原抗体反応効率が上がるといったメリットがあります。

ウェスタンブロッティングの転写にはエレクトロブロッティング法(図1)を用います。前工程の電気泳動でSDS と結合して負に荷電したタンパク質分子をポリアクリルアミドゲルからメンブレンへ電気的に移動させます。そのため、ゲル側に陰極を、メンブレン側に陽極をセッティングします。

ブロッティング装置にはタンク式のものとセミドライ式があります。1 時間ほどの短い時間で高い転写効率が得られるため、セミドライ式のほうが一般的になっています。

タンク式

水平方向に電極、ゲル、メンブレンを設置し、タンク内に転写バッファーを満たして泳動します。(図2)にタンク式の代表的な製品と原理図を示しました。転写効率が高く、均一な転写が行えるという利点があります。次に紹介するセミドライ式の方法よりもバッファーを多く 準備する、泳動時に冷却が必要、高電流をかけて長時間泳動する必要があります。

セミドライ式

垂直方向に電極、ゲル、メンブレン、バッファーを浸したろ紙を設置して泳動します。(図3)に代表的な製品と原理図を示しました。短時間で転写できる、バッファー量が少なくて済むなどの利点があり、セミドライ式のほうが多く用いられています。

セミドライの転写では、電流値を0.8 ~ 1 mA/cm2 に設定して行うのが一般的ですが、転写効率の悪い高分子タンパク質や塩基性タンパク質の場合は、電流値を下げて時間を長く(90分程度)するほうが転写効率があがります。転写中に電極板とろ紙の間に発生した気泡がた まり、次第に電流が流れにくくなるので、長時間電流をかけるのはおすすめしません。

転写効率を上げるポイント

  • 転写バッファーと泳動バッファーの組成が異なる場合はゲルを転写バッファーに浸してバッファーを置換します。このステップを飛ばすとバンドが消失する、解像度が低下することがあります。
  • 高分子のタンパク質は、転写時間を長くできるタンク式のほうが効率よく転写できる場合があります。
  • 転写バッファー中のメタノールはタンパク質とSDS の結合力を低下させることでメンブレンへの吸着をよくします。一方ゲルが縮んでポアサイズが小さくなり、ゲルからの溶出が低下します。ニトロセルロースでは20%、PVDF メンブレンでは15%を目安に加えます。
  • 転写バッファーに0.01 ~ 0.1%のSDS を加えるとゲルからタンパク質の溶出効率が上昇します。

ブロッティング装置の選び方

実験下図より実験に最適な装置をお選びください。各装置の仕様については表1 をご参照ください。

表1.各ブロッティング装置の仕様

製品 タイプ バッファー量(L) 最大ゲルサイズ(cm) 同時処理可能ゲル枚数 冷却
miniVE Blot module セミウェット 0.3 9 x 10.5 4*2, 2
TE 42 Transphor Unit タンク 5 15 x 21 4, 2*1
TE 62 Transphor II Cooled Unit タンク 5 15 x 21 4
TE 22 Mini Tank Transphor Unit タンク 1 9 x 10 4
NovaBlot Kit Multiphor II セミドライ 0.2 20 x 25 6 不可
TE 70 PWR Semi-dry Transfer Unit セミドライ 0.2 14 x 16 2 不可
TE 77 PWR Semi-dry Transfer Unit セミドライ 0.2 21 x 26 2 不可

*1オプションの冷却装置を使用した場合。

*2プロットモジュール2 個使用時の枚数です。

メンブレンの選び方

メンブレンにはポリビニリデンジフロライド(PVDF)とニトロセルロースメンブレンが適しています(表3) 。PVDF は結合能が高いため、感度が高い、破れにくいという利点があります。

ただし、使用前にメタノールによる親水化の処理が必要です。ニトロセルロースメンブレンは親水化の処理がないので簡便ですが、物理強度が弱く破れやすいという欠点があります。

感度が高い、破れにくいなどの利点が多いことから初めて行う方、リプロービングの予定がある方にはPVDF をおすすめしています。ドットブロットには乾きにくいニトロセルロースがおすすめです。次のフロー図から最適な製品をお選びください。また各製品の特長を(表2) にまとめました。

表2.各メンブレンの特長

Amersham™ Hybond™ LFP PVDF Amersham™ Hybond™ P PVDF Hybond™-ECL™ Amersham™ Protran™ Premium NC
種類 PVDF PVDF ニトロセルロース ニトロセルロース
強度 破れにくい 破れにくい 破れやすい 破れやすい
結合能 400 μg/㎠ 125 μg/㎠ 100 μg/㎠ 80 ~ 100 μg/㎠
推奨キット ECL Plex™ ECL™、ECF、発色法 ECL™、発色法 RI

表3.PVDF とニトロセルロースの性質

PVDF ニトロセルロース
結合能(μg/㎠) 100 ~ 400 80 ~ 100
結合様式 疎水結合、静電気的結合 疎水結合、静電気的結合
物理強度 破れにくい 破れやすい
親水性 低い 高い
利点 物理強度が高く、リプロービングに向く 親水性が高く、取り扱いやすい
考慮点 使用前に一度メタノールに通す必要がある 物理強度が低い

PVDF メンブレンの親水化処理

PDVF メンブレンを使用する前に親水性を高める処理を行う必要があります。PVDF メンブレンはそのままでは水に浮いてしまい、サンプルもはじいてしまうためです。

手順

  • 100% メタノール溶液に20 秒間完全に浸します。
  • 超純水に移し1 分間浸します。
  • ブロッティングバッファーに移し5 分間浸します。

    この段階でもまだ水面に浮くことがあります。傷つけないように注意しながらバッファーに沈めます。
    親水性が高まると色が変色して薄いグレーになります。

ブロッティングバッファーの調製方法

ブロッティングでは次の2 種類のバッファーが用いられます。

  • 連続バッファー
  • 不連続バッファー(セミドライ型のみ)

連続バッファーは最も一般的なバッファーでタンク式、セミドライ式どちらでもお使いいただけます。

不連続バッファーはセミドライ式をご使用の際に転写効率を上げる目的で使用します。バッファーに濃度勾配をつけると効率が上がる現象を利用したものです。

連続バッファー:Towbin バッファー(Tris-Glycine 系)

下記試薬を計量し、超純水で1.0 L に調製します。

表3.PVDF とニトロセルロースの性質

25 mM Tris pH8.3, 192 mM グリシン, 20% v/v メタノール
Tris 3.0 g
Glycine 14.4 g
メタノール 200 ml

pH 調整は必要ありません。

メタノールはメンブレンへのタンパク質結合効率を上げたい場合に有効です。10 ~ 20%(PVDF メンブレンの場合≦ 15%、ニトロセルロース≦ 20%)程度加えます。

SDS は通常添加不要ですが、高分子タンパク質のゲルからの溶出効率を上げたい場合に、0.01 ~ 0.1%(w/v)程度でバッファーに加えてください。

不連続バッファー

バッファー1 ~ 3 を調製し、ゲル、メンブレン、ろ紙をそれぞれのバッファーに浸します。

バッファーは4℃で保存します。

TE70 / TE77 PWR Semi-Dry Transfer Unit でのブロッティング方法

転写の準備

  • 陽極、陰極の各電極板を脱イオン水ですすぎます。
  • ウェル部分と濃縮ゲルを除いたゲルサイズを測定します。泳動後のゲルは必要に応じてブロッティングバッファーで平衡化します。
  • 測定したゲルサイズより各辺2 mm 程小さい“窓”をマスク中央に開けます(マイラーマスク)。このマスクを陽極電極板上におきます。
  • 4 ~ 6 枚のブロッティングペーパーをゲルと同じサイズにカットし、2 ~ 3 枚× 2 組に分けてブロッティングバッファーに浸します。
  • メンブレンをゲルと同じサイズにカットします。ニトロセルロースメンブレンは脱イオン水ですすいだ後、PVDF メンブレンはメタノールで親水処理を行った後にブロッティングバッファーに浸します。
  • 以下のようにブロッティングペーパー、メンブレン、ゲルを陽極電極板上に重ねていきま す(下図)。
    • a:4)のブロッティングペーパー1 組を軽くバッファーをきり、陽極電極板においたマイラーマスク上に“窓”を覆うように重ねます。
    • b:5)のメンブレンをa に重ねます。
    • c:2)のゲルをb に重ねます。
    • d:4)の残りのブロッティングペーパーをc に重ねます。
  • カバーをセットし、電極コードをベースの接続口に差し込みます。
  • 複数枚のゲルを転写する場合は、電極の接触をよくするためにカバーの上に1 kg の重しをのせます。

ブロッティングの実行

  • パワーサプライの電源を切り、電流・電圧値を0 にします。
  • 電極コードをパワーサプライにつなぎます。(赤:陽極、黒:陰極)
  • ゲルサイズに対し、0.8 mA / ㎠ に電流値を設定します。
  • ブロッティングを開始します。
    通常、1 時間以内に終了しますが、高分子タンパク質やNative 状態のタンパク質を転写する場合はさらに時間をかけたほうが転写効率が上がります。ただし、2 時間以内に終了してください。

ブロッティング中、電圧値が以下のような場合、サンプルやユニットにダメージを受けることがあります。

  • 電圧が20 V 以上になる :イオン強度が不適当→バッファー濃度を確認してください。
  • 電圧が10 V 以上変動する: バッファー不足→トランスファーバッファーに浸したブロッティングペーパーを増やしてください。
  • カバーの温度が上がった場合にもトランスファーバッファーに浸したブロッティングペーパーを増やしてください。

ブロッティングの終了

  • パワーサプライのスイッチを切り、電極コードを抜きます。
  • カバーから出ている電極コードをベースから抜き、カバーをはずします。
  • メンブレンを取り出します。

ユニットは、脱イオン水ですすぎ乾燥させます。オートクレーブ、自動洗浄装置は使用しないでください。セイフティーインターロック部と電極コードはぬらさないでください。ユニットを水につけ込まないでください。