DIGE 道場 第3回
できるプロのタンパク質抽出術
第3回 もくじ
- はじめに ~とってもDIGE(大事)なタンパク質抽出~
- タンパク質可溶化液について
- 培養細胞からのタンパク質抽出法
- 組織からのタンパク質抽出法(本ページ)
- おわりに
Dr. 近藤のコラム
コラム第3回 「生涯道場編」 ~戦うプロテオーム研究~
4. 組織からのタンパク質抽出法
いろいろ試行錯誤を繰り返した結果、これから述べる2つの方法が組織からの試料調製として、今のところベストであると筆者は考えている。
それぞれについて詳細を述べる前に、試料調製のプロトコールを考えるときのイメージについて簡単に触れておく。
●細胞は一気に可溶化するべし!
まず、よい試料調製のためには細胞を一気に可溶化することが肝心である。これは、上述の培養細胞からのタンパク質抽出にも共通する。組織に含まれる細胞をできるだけ分離しておいて、ばらばらになった細胞に可溶化液を、タンパク質分解酵素が働く間もなく一気に作用させる。
やってはいけない例は、タンパク質酵素が活性を持つ程度の中途半端に冷えた状態(on ice+α)の組織に抽出液を加えてタンパク質を抽出する方法である。ガラス製のダウンスホモゲナイザ-に冷えた組織を入れて可溶化溶液とともに「ぐちゃぐちゃ」とすりつぶす、という操作がだめな例に相当する。「タンパク質分解酵素は不活性化されていないが、タンパク質分解酵素を適切に他のタンパク質から分離しておく細胞内機構(たとえばライソソーム)は破綻している」という状況が短時間であっても存在してしまうことが問題である。
冷えた腫瘍組織にいきなりタンパク質可溶化液を加えた場合、塊の外側の細胞は十分可溶化されタンパク質分解酵素も活性をもたないだろから問題ない。また、塊の最中心の細胞は逆にまだ冷えている上にタンパク質可溶化液が届いていないので、これも問題ない。
問題は、物理的あるいは概念的にその中間にある細胞群である。タンパク質分解酵素の活性は保存されたままなのにそれを制御する機構が破綻されている、という状態が発生している。この相のサンプルにおいてタンパク質分解が発生するのではないかと推定している。細胞をできるだけばらばらにし、細胞一個ずつにタンパク質可溶化液が直接反応するようにすることでこのような問題点を解決することができる。
●いかにタンパク質以外を除くか
もう一つのポイントは、タンパク質以外の夾雑物をできるだけ除くということである。等電点電気泳動はサンプルに含まれる塩、脂質などに影響を受けやすい。また、2D-DIGE法ではフリーのアミノ酸(特にリジンやシステイン)が多いサンプルではラベルがうまくいかない。タンパク質サンプルにTCAやアセトンを入れて沈殿させることで上記の夾雑物を除去することもできる。しかし、すべてのタンパク質が沈殿するわけではないこと、タンパク質サンプルの濃度が薄いと沈殿しないこと、沈殿させすぎると2度と溶けなくなったりすること、などが問題である。血清タンパク質を対象にする場合はよい方法なのだが、細胞内タンパク質に対してルーチンに行うことはお勧めしない。代わりに、サンプリングの段階でできるだけタンパク質以外のものを除去しておくような工夫をする。
次へ 4-1. レーザーマイクロダイセクション法による試料調製
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