DIGE 道場 第3回
できるプロのタンパク質抽出術
第3回 もくじ
- はじめに ~とってもDIGE(大事)なタンパク質抽出~
- タンパク質可溶化液について
- 培養細胞からのタンパク質抽出法
- 組織からのタンパク質抽出法
- おわりに
Dr. 近藤のコラム
コラム第3回 「生涯道場編」 ~戦うプロテオーム研究~
B. 凍結状態の試料からの試料調製 つづき
(凍結組織からのタンパク質抽出法 つづき)
マルチビーズショッカーから取り出したアルミブロック+チューブのセットはすぐに液体窒素に入れる。ピンセットは必須。
きちんと粉末状に破砕されているかどうかをタッピングで確かめているところ。うまくいっていなければ再度マルチビーズショッカーにかける。腫瘍組織が大きすぎるとうまくいかない。
チューブの表面が霜降りになって見えにくいのだが、チューブの底にちょっと赤く見えるのが腫瘍組織、その上にステンレスビーズが入っている。
破砕された腫瘍組織+ステンレスビーズの入ったチューブに、上述のタンパク質可溶化液を入れているところ。ウレアが入っているので低温だとすぐに結晶化する。この段階で、ぱらぱらになっている細胞とタンパク質可溶化液がよくまざっていて欲しいところである。
上述のチューブを氷上に置く。氷の温度まで温度が上昇すると、腫瘍組織がタンパク質可溶化液によって可溶化されていく。
チューブに入っているビーズは専用の磁石で取り出す。
その後、15,000回転、30分で不溶成分を沈殿させ上清を回収しているところ。これでタンパク質抽出は終了。分注して-80℃に保存する。
上記の手法で抽出したタンパク質サンプルを使って泳動した肺腺がんの二次元電気泳動画像。施行者は肺がんを専門とする内科医である小斎平聖治医師。彼はこのようなゲルを800枚以上泳動し肺がんの個別化医療のためのバイオマーカーを開発している。肺がんのプロテオーム解析として過去最大の症例数である。前述の食道がんのプロテオーム解析もそうだが、でたらめに症例数が多いというのではなく、臨床病理学的背景を専門医の視点からきちんとそろえた結果の症例数なので、よい結果が得られる可能性はきわめて高い。逆に言えば、きちんとした臨床研究を行うためにはこのくらいの数は必要である。
このタンパク質抽出は失敗するような実験ではないのだが、注意点が二つある。
一つはチューブに入れる組織はあまり大きすぎないこと。米粒数個程度の大きさがちょうどよい。
次に、最終段階であまりにタンパク質溶液が赤い場合は注意が必要である。着色の原因は赤血球由来のヘモグロビンだと思われるので、血清タンパク質の混入がどの程度のものか念のためサンプルチェックをした方がいいかもしれない。血清タンパク質の混入が極端に多いサンプルがあった場合、それらを共通のミクスチャーに混ぜると実験系全体がだいなしになる可能性がある。小さいゲルでいいので二次元電気泳動で血清タンパク質の混入度合いを見た方がいいだろう。
ちなみに、混入している血清タンパク質を除去する目的でAgilent™の抗体カラムでメジャーなタンパク質を除去しようとしたことがある(もちろん希釈してウレア濃度は下げてから)。しかし、アルブミンやIgGなど除去されるべきタンパク質以外のたくさんの細胞内タンパク質もなくなってしまった。混入した血清タンパク質には今のところ打つ手がない。その意味ではやはりレーザーマイクロダイセクションで脈管をさけて細胞を回収するのがベストである。ただ、レーザーマイクロダイセクションができないサンプルだからといってあきらめることはない。発見の可能性が低くなったり、データの精度が落ちる、というリスクを負うだけのことである。
5. おわりに
よい試料調製法をマスターすると2D-DIGE法に限らずタンパク質実験のレベルは確実に向上する。ここに記した方法を試したがうまくいかなかったという方、試そうとしても詳細がわからないのでできなかった、という方はご一報いただきたい。個別にご相談にのります。
Dr. 近藤のコラム 「2D-DIGE の熱い心」
コラム第3回 「生涯道場編」 ~戦うプロテオーム研究~
近藤 格
参考文献
- Kondo T, Hirohashi S. Nat Protoc. 1(6):2940-56(2006)
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