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Location:Home実験手法別製品・技術情報2D DIGE(蛍光標識二次元発現差異解析)

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DIGE 道場 第3回
できるプロのタンパク質抽出術

第3回 もくじ

  1. はじめに ~とってもDIGE(大事)なタンパク質抽出~
  2. タンパク質可溶化液について 
  3. 培養細胞からのタンパク質抽出法
  4. 組織からのタンパク質抽出法
  5. おわりに

Dr. 近藤のコラム
→コラム第3回 「生涯道場編」 ~戦うプロテオーム研究~

A. レーザーマイクロダイセクション法による試料調製

●ターゲットとなる細胞集団を的確に採取

がん研究における発現解析では、基本的にすべてのサンプリングにレーザーマイクロダイセクションを使用するべきである。レーザーマイクロダイセクションでは、凍結組織を数ミクロンの厚さにスライスして専用のスライドグラスに貼り付け、軽く染色したあと、顕微鏡で観察しながら目的の細胞(集団)の輪郭をレーザーでなぞって回収する。

腫瘍組織にはがん細胞以外に正常細胞や炎症細胞、間質細胞、そして血管内皮細胞などが含まれている。さらに、腫瘍組織中の血管は大量の血清タンパク質を含んでいる。これらをまとめてすりつぶしていたのでは、何のプロテオーム解析をしているのかわからなくなってしまう。肝細胞がんのように腫瘍組織中での腫瘍細胞の割合が多い腫瘍であっても、同一腫瘍組織内に異なる組織型、分化度を示す腫瘍細胞が存在する例もある。このような場合は、それぞれの細胞集団が独自のプロテオームをもっていると考えられるため、区別してサンプリングするべきである。一般にどの腫瘍の場合でも血清タンパク質のコンタミを考えれば脈管構造はできるだけ避けてサンプリングした方がよい。腫瘍組織の間質はがんの発生や進展に重要な働きをしているので、これも区別して回収するべきである。

筆者のラボは、手術検体を扱うプロテオーム解析ではすべてのサンプルを基本的にはレーザーマイクロダイセクションにて細胞を回収し、そこからタンパク質を抽出している。保存状態によっては切片にしたときに組織像が観察されないこともあり、やむを得ずまとめてサンプリングすることもある。その場合、タンパク質の発現差が細胞中のタンパク質の発現差を意味しているのか、それとも腫瘍細胞以外の細胞や血清タンパク質の割合を反映しているのかをはっきりさせるためには、免疫染色などの実験が後に必要になる。また、存在するはずの発現差が、細胞の割合によっては検出できないこともありうる。

レーザーマイクロダイセクションでは、スライスされて一層の状態になった細胞に可溶化バッファーを反応させるので、細胞は一気に可溶化される。したがって、上述の問題のうちタンパク質分解の問題が解決されている。可溶化の前の染色の段階で細胞を高濃度エタノール固定するのだが、その際に電気泳動を妨害する夾雑物が固定液に溶け出して除去されることもこの方法の長所である。すなわち、タンパク質の抽出において筆者が重要と考えるポイントを、レーザーマイクロダイセクションはクリアしているのである。

レーザーマイクロダイセクションからのプロテオーム解析においては、細胞をレーザーで回収するステップが律速段階になる。従来はタンパク質スポットの検出に銀染色を使っていたが、銀染色の感度に依存して多くの細胞を回収する必要があった。そのためにはあまりにも膨大な時間がかかっていたため、レーザーマイクロダイセクションからの二次元電気泳動法は現実的なプロトコールではなかった。今では超高感度の蛍光色素(サチュレーションダイ)でタンパク質を標識することで少ない数の細胞で二次元電気泳動ができるので、従来とは比べものにならないほど効率よく実験を行うことができる。

筆者のラボでは連続切片からDNA、RNA、タンパク質を抽出し、それぞれゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームの解析に使用することを計画している。がんに伴うさまざまなレベルでの異常を網羅的かつ統合的に理解し、がんのメカニズムの解明や治療成績の向上に役立てることが目的である。レーザーマイクロダイセクションから得られるサンプルはいずれの解析にも適しているので、このような多角的な研究に使える。

レーザーを当てるとタンパク質が分解するのではないか、という質問をたびたび受ける。機械によってはガラス板越しではあっても回収する細胞全部にまともにレーザーを当てているものがあって、そういうものはよくわからない。しかし、切りたい面積の輪郭をレーザーがなぞるように切り、輪郭の中の細胞を回収するタイプではほとんど問題にならないと考えている。問題になるとしてもレーザー照射からごく近い領域だけなので、全体からすると無視できる組織面積だからである。筆者の長年の経験からも、レーザーマイクロダイセクションで回収した細胞からタンパク質を抽出した場合に、明らかにタンパク質が分解しているような二次元電気泳動パターンはかつて一度も見たことがないので、まず問題ないと思っていただいて間違いない。

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