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抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~バイオ医薬品の品質管理について話の本題に入る前に、その上流の抗体医薬品のデザインに関して触れておこうと思います。抗体医薬品のデザインにおいても、生物物理と計算科学の融合が始まり、それが現状ではどこまで進んできているのか、昨年開催したCBI学会研究講演会の内容を中心にお話させていただきます。 抗体医薬品の開発の技術革新は、昨今急速に進化しています。 現状、抗体医薬品は、抗原を元に、できるだけ多くの種類の抗体を作成して、ELISAなどを用いて結合の強さ(Affinity)を指標にスクリーニングを行っています。そこからさらにAffinityを高めるために、結合領域のアミノ酸配列などを変化させていき、よりAffinityの強い抗体を作製します。これは、抗体ライブラリーからスクリーニングという流れの視点からみると、低分子化合物医薬品のハイスループットスクリーニングの流れに非常に似ています。 低分子化合物の場合も、大量のライブラリーの中から、化合物を選別して、そこから細胞のアッセイなどを行い、薬効を確認してきます。しかし、最近ではさらに、300 Da以下の分子量をもつ「フラグメント化合物」を用いて、より少ないライブラリーから効率的に低分子医薬品を設計していく方法が一つの主流になりつつあります。また、事前に化合物のライブラリーを精査するために、化合物データベースを用いて、構造が類似しているライブラリーを作成することや、タンパクの結晶構造解析を元に、化合物が結合する領域をコンピューターに詳細に解析することで、どこの側鎖が結合に関与するかを調べるなど、より構造解析を重視した方法も用いられることが多くなってきました。構造解析などの情報を用いることは、たとえば非特異的結合の有無(これは副作用に影響を与える場合がある)を調べるためにも有効な方法であると考えられます。 現在、抗体医薬品の開発においても同様に構造解析の情報を利用することが模索されています。たとえば、非特異的結合の排除や、機能向上のための変異をどの位置のアミノ酸や側鎖で行うかなどをコンピューターを用いてシミュレーションします。さらには、大規模に蓄積されたタンパク質のデータベースを用いて、タンパク質の配列から3次元構造の予測を行っていきます。構造予測をするためには、分子動力学法(Molecular Dynamics method、MD法)を用いて、原子・分子間のポテンシャルを考慮しながら計算します。この手法は以前から行われていましたが、コンピューターの計算処理のスピードがボトルネックになっていました。しかし、最近の計算速度の向上により、創薬への応用に関しても、現実味を帯びてきたといえます。以前では1つのタンパク質の構造でさえも数ヶ月単位の時間を必要としていましたが、最近では数週間単位と非常に短縮されてきています。実際に研究レベルでは抗体の3次元予測は可能になっていますので、ITなどの融合は今後の抗体医薬品開発に大きな変革を与えると考えられます。 (→大きい画像) また、もちろん予測から得られた情報の検証も重要になっており、その検証技術の進歩も合わせて求められています。X線構造解析やNMRなどの構造情報の確認や、熱力学的解析による結合エンタルピー、エントロピーの解析、抗体医薬品の基本である結合の強い抗体=解離が遅い抗体の検出法、さらには、細胞/in vivoイメージングによる抗体の動態解析なども抗体医薬品の開発過程において、非常に重要な技術となっています。 このように、これからの抗体医薬品開発研究では、既存の方法はもちろん、物理化学や計算科学を取り入れた様々な手法による機能意味付けが求められており、さらに開発レベルの向上に向けては、MD法などの構造予測もさらに積極的に利用されていくと考えられています。 「相互作用解析の王道」について「相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。
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