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Presented by Dr. Kouhei Tsumoto
東京大学大学院
医科学研究所
津本 浩平 先生

実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析(1)
特に超好熱性タンパク質に対する温度に対応したDNAの相互作用特性について

目次

  1. はじめに(当ページです)
  2. 超好熱菌由来TATA-box結合タンパク質の分子特性
  3. PhoTBPのSELEX解析
  4. SELEX DNAの熱力学的な相互作用解析
  5. SELEX DNAの塩濃度依存性
  6. ゲノム配列における生物学的意義
  7. おわりに

はじめに

みなさんこんにちは。今回は、現在甲南大学先端生命化学研究所(FIBER)にて研究を進めておられます長門石先生が小生の研究室にて行った研究を中心に、DNAとタンパク質の相互作用を熱力学的にどのように解析するかについての例をご紹介したいと思います。

核酸とタンパク質の相互作用が生命現象において重要であることはいうをまたないと思います。塩基配列特異的なタンパク質相互作用は、転写や翻訳をさまざまな観点で制御しています。このような相互作用も、当然熱力学的解析の対象となり、さまざまな研究が報告されてきました。日本でも、織田先生(現京都府立大学)と中村春木先生(現大阪大学)のグループ、甲南大学の杉本先生のグループ、東京理科大学の鳥越先生により優れた研究が報告されています。

織田先生らが2001年に発表された総説に、タンパク質-核酸相互作用の一般論がよくまとめられています [1]。彼らによれば、タンパク質と核酸の相互作用には2段階あり、第1段階として、核酸が持つリン酸のポリアニオンとしての性質をタンパク質が認識する過程、第2段階として、塩基配列特異的なタンパク質認識があること、前者は、脱水和を駆動力とする相互作用となり、吸熱でかつ解離が早いという特性を持つのに対して、後者はタンパク質の構造変化(誘導結合と呼ぶべきかもしれません)による、発熱反応でかつ解離が遅いという特性を持ちます。転写因子等塩基配列特異的なタンパク質はこのように2段階の熱がトータルとして現れることになります。特筆すべきは、第1段階のポリアニオンとしての核酸とタンパク質の相互作用が、静電相互作用であるにも関わらず、吸熱、すなわち脱水和に必要な熱に支配されていることです。これは、われわれが抗原抗体相互作用でも見いだしていること[2]であり、化学的にもよく知られているものです。第2段階の塩基配列特異的相互作用は、タンパク質側の大きな水和構造の変化を伴いますので、それは例えば比熱変化量(ΔCp)の大きさにもはっきり現れます。

さて、高度好熱菌など極限環境生物についての研究が盛んに行われています。これは、その生物の特性を理解するという研究はもとより、タンパク質の特性を生かした応用研究がいまなお盛んです。このような生物が生育している環境は、例えば二本鎖DNAが不安定化するような高温度(80℃以上)であること、また静電的な相互作用を遮蔽する高塩濃度(1 M以上)であることなど、タンパク質-DNA間相互作用において不利な条件になっています。タンパク質側は高温環境に対して、タンパク質内部の疎水性を高め、さらにタンパク質表面の残基間によるion-pair形成によって高い熱安定性を獲得しており、また高塩濃度環境に対しては、DNAとの結合界面にカチオン分子を取込むことで静電的遮蔽を緩和させていることが知られています。ではDNA側には温度に適応した塩基配列特異性、それに伴う機能特異性はないのでしょうか。

近年、古細菌におけるその生育温度とゲノム配列において興味深い報告がなされています[3]。低温 (37℃) 環境下ではYRまたはRY配列(Y:ピリミジン塩基、R:プリン塩基)が多く存在している一方で、高温環境になるに従いYYまたはRR配列が多くなります。この温度によって異なる配列傾向には、二本鎖DNAのコンホメ-ション変化に関連する柔軟性に違いがあることが明らかになりつつあります。従ってDNAにも環境温度に適応した配列(構造)特性があるのではないかと考えられます。そこで、われわれは、超好熱菌由来のTATA-box結合タンパク質をモデル分子として、二本鎖DNAへの配列特異性探索を行い、熱力学的な解析を基盤に温度に対応する塩基配列とその相互作用特性について解析してみました。得られた結果に基づいて、ゲノム配列に関連した生物学的な意義についても議論してみたいと思います。

次へ(超好熱菌由来TATA-box結合タンパク質の分子特性)


相互作用解析の王道」について

相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。

連載記事一覧
タイトル 配信
ご挨拶 連載「相互作用解析の王道」を始めるにあたって 2009年8月
第1回 原理:其は王道を歩む基礎体力 2009年10月
第2回 実践編その1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例 2009年12月
第3回 対談:アフィニティーを測定する際の濃度測定はどうする? 2010年2月
第4回 実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1 2010年4月
第5回 実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析 2010年8月
第6回 概論:タンパク質/バイオ医薬品の品質評価における、SPR/カロリメトリーの有用性 2010年11月
第7回 抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~ 2011年5月
第8回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~相互作用の観点から~ 2011年8月
第9回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~タンパク質の構造安定性の観点から~ 2011年9月
第10回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1) 2011年10月
第11回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(2) 2011年12月
参考 用語集  
〈応用編〉連載記事一覧
タイトル 配信
第1回 抗体医薬リードのカイネティクス評価手法の実例 2012年5月
第2回 細胞表面受容体の弱く速い認識を解析する 2012年7月
第3回 SPRを用いた分子間相互作用測定における、“低”固定化量の重要性 2012年8月
第4回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(1) 2012年9月
第5回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(2) 2012年10月
第6回 「ファージライブラリによるペプチドリガンドのデザインにおける相互作用解析」 2012年11月
第7回 SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション 2012年12月
第8回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(3) 2013年2月
第9回 熱分析とタンパク質立体構造に基づくリガンド認識機構の解析 2013年3月
〈最終回〉
最終回 連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって ~3年間を振り返って、そしてこれから~ 2013年4月

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東京大学 医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリー


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