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Presented by Dr. Kouhei Tsumoto
東京大学大学院
医科学研究所
津本 浩平 先生

実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1)

目次

  1. はじめに
  2. フラグメントスクリーニングにおけるSPR測定の注意点(当ページです)
  3. 選出されたフラグメントのITCを用いた効率の良いヒットバリデーション法とエンタルピーランキング法(competitive SITE法)

フラグメントスクリーニングのおけるSPR測定の注意点

さて、低アフィニティー・低分子量であるフラグメントのSPRスクリーニングにおいて高品質なヒット化合物を得るにはどのような点に特に気をつけるべきでしょうか。答えはいろいろありますが、非特異的吸着(Non-Specific Binding: NSB)を理解することは非常に重要な点です。低アフィニティーであるフラグメントの測定濃度は必然的に高くなります(50 µM~2 mM程度)が、その結果NSBを起こしやすく、特異的相互作用をマスクして偽陽性だらけになってしまう恐れがあるからです。ではどのようにNSBが小さく(Noise)、結合レスポンス(Signal)の大きな(S/Nが高い)良好なスクリーニング系を構築できるのでしょうか。SとNを分けて考えてみましょう。

  1. 結合レスポンスを大きくするには(S)
    1. 添加濃度を高くする
    2. 固定化量を大きくする(アミンカップリング法を適用する)
  2. NSBが起こる原因(N)
    1. 添加濃度が高すぎる
    2. 固定化している標的タンパク質中のいくらかが変性しており疎水的なNSBを起こしやすくしている
    3. 固定化量が大きすぎるとそれ自体でNSBが起こりやすい

お気づきのとおり1と2はほとんど同じことを言っています。添加濃度を高くするとSが高くなると同時にNも高くしてしまうリスクを負うことになります。また固定化量を大きくするためにアミンカップリング法を適用するとタンパク質の変性が起こしやすくNの上昇を引き起こしがちです。2-cについては少しデータをご紹介した方が良いかもしれません。図1を見てください。これはERK2を標的タンパク質として、各種固定化方法・固定化量とNSBの起こりやすさとの関係を調べたものです。固定化量の大きい方がNSBを起こしやすいことがわかります。

図1
図1. 固定化量とNSBの起こりやすさとの関係
(→別ウィンドウで大きく表示

もう一つ、添加濃度についても考えてみましょう。表1は理論式に基づいて各添加濃度に対してどのくらいの大きさの特異的レスポンスが得られるか算出しました。KD<2 mMの選出クライテリアを設定した場合、200 µM程度の濃度を添加すれば装置の感度から十分検出することができ、かつ濃度が高すぎることもないと考えました。

表1
表1. 添加濃度と平衡値レスポンスとの関係
(→別ウィンドウで大きく表示

では、どのようなSPRスクリーニング系を構築したら良いかということをまとめます。固定化方法については、アミンカップリング法もアビジン-ビオチンに代表されるようなキャプチャー法もそれぞれにメリット・デメリットがあります。したがって、標的タンパク質によって最適な方法は異なります。しかしながら、装置検出器の感度の向上とともに、より小さなレスポンスをNSBの少ない環境で検出することの有用性は増していくと考えられます。また、両方の固定化手法をともに行い重複選出された化合物は、非常に確からしいヒットがほとんどであったという結果も次回の実験例でご紹介したいと思います。

次へ(選出されたフラグメントのITCを用いた効率の良いヒットバリデーション法とエンタルピーランキング法)


相互作用解析の王道」について

相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。

連載記事一覧
タイトル 配信
ご挨拶 連載「相互作用解析の王道」を始めるにあたって 2009年8月
第1回 原理:其は王道を歩む基礎体力 2009年10月
第2回 実践編その1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例 2009年12月
第3回 対談:アフィニティーを測定する際の濃度測定はどうする? 2010年2月
第4回 実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1 2010年4月
第5回 実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析 2010年8月
第6回 概論:タンパク質/バイオ医薬品の品質評価における、SPR/カロリメトリーの有用性 2010年11月
第7回 抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~ 2011年5月
第8回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~相互作用の観点から~ 2011年8月
第9回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~タンパク質の構造安定性の観点から~ 2011年9月
第10回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1) 2011年10月
第11回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(2) 2011年12月
参考 用語集  
〈応用編〉連載記事一覧
タイトル 配信
第1回 抗体医薬リードのカイネティクス評価手法の実例 2012年5月
第2回 細胞表面受容体の弱く速い認識を解析する 2012年7月
第3回 SPRを用いた分子間相互作用測定における、“低”固定化量の重要性 2012年8月
第4回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(1) 2012年9月
第5回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(2) 2012年10月
第6回 「ファージライブラリによるペプチドリガンドのデザインにおける相互作用解析」 2012年11月
第7回 SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション 2012年12月
第8回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(3) 2013年2月
第9回 熱分析とタンパク質立体構造に基づくリガンド認識機構の解析 2013年3月
〈最終回〉
最終回 連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって ~3年間を振り返って、そしてこれから~ 2013年4月

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