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Location:Home実験手法別製品・技術情報BIA(生物物理学的相互作用解析) > 相互作用解析の王道

Presented by Dr. Kouhei Tsumoto
東京大学大学院
医科学研究所
津本 浩平 先生

連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって
~3年間を振り返って、そしてこれから~

2. 化学と生物学の融合と発展

知也:激動の3年のなかでの連載ということだったのですね。

津本:それはたぶん、装置を売られている方、皆さん、感じていると思いますよ。関心度の高さだとか、依頼分析とか、データの解釈についてとか。しかし、基礎研究とか、創薬とかの新しいニーズができたというよりは、もともとあった物理化学的な評価へのニーズが顕在化してきた時代というのが正しいかな。物理化学的な評価のためにどうするか、それなら相互作用解析だ、と。その中でも特に古くて新しい議論ですね、熱力学って。我々も知っているし、教科書に載っているし、特に化学のバックグラウンドがあって生物学を研究している人は、昔からやっているんだけれども、その方法が一般化しましたね。しかも、再現性のいい装置になって、しかも感度が良くなったから、使うサンプル量が少なくなって、みんなが実験できるようになりました。だから、市販されているタンパク質や核酸から、ラボで合成して少量しか得られないような合成核酸とか、タンパク質に広まったことが、結果としてすそ野を広げました。

知也:バイオロジーの研究者の方にも使えるような技術になったと。

津本:純粋な生物学者でも、そうですね。分子を特定せずにやっている人とか、表現型に注目して研究している人にも広まってきたということですね。

知也:逆に、もともと化学から生物学に入った人たちに何か変化とかありますか。

津本:化学の人が化学の知識を使って生命現象の解釈に取り組んだのが5年くらい前までで、今度は化学の方法で、新しい分子や既存の生体分子を超える分子をつくろうとしています。今まではコンセプトとして「つくる」と言ってきたけれど、いよいよ現実のものになっているという気がしますね。単に、タンパク質や核酸を何かモディファイするだけではなくて、目的や機能から新しいものを設計するという流れが大きくなったと感じています。例えばこれがタンパク質じゃないといけなかったものが、タンパク質をモディファイしてやるのではなくて、化学的に作っているものになっていくとかね。
生体分子を模倣するバイオミメティックスから、新しい分子を作るという流れになったような気がしますね。

知也:そうですね。生物学の人が化学で使われていた技術を使うようになったり、化学系の人はその技術を応用して、さらに生物学に入って、また戻ってきたりと。

津本:そう、バイオミメティックスで生体分子をいじっていたくらいだったのが、人工分子で生命系に適用できるような分子を作るようになっている。プローブも大きな流れですね。そういう意味では、今まで抗体でなければできなかったことが別の分子でできると。

知也:そうですね、そこが次、出てくるのですね。

津本:これから出てきますね。そのときもやらなければいけない方法論となると、それが相互解析作用ですから、すそ野が広がったのはすごく大きなステップだと思いますね。
従来の合成も大事ですけど、合成の研究を踏まえて新しいステップに入ってきていますね。我々の世代から下の世代は、「こういう分子が欲しかった」という分子を作り出しています。それまで研究者が感覚でつくってきたのに対して、物理化学的な情報が蓄積されてきたので、至適化された構造に作り直そうという研究です。

太蔵:その流れだと、SPRとか、カロリメーターといった相互作用解析技術は必ず使われると思います。では、プロテインAを使った精製技術などはどうなっていくのでしょうか。抗体から人工分子に変わってゆく中で、使われなくなるのでしょうか。

津本:医薬品としては10年とか15年というスケールでは抗体は変わらないでしょう。しかし、基盤研究者はタンパク質を使わないクロマトプロセスを意識しているし、既にそれをねらっている方々もいます。

太蔵:そうですよね。

津本:医薬品製造のプロセス設計って、各々の要素技術はそんなに新しくない。現時点ではベースになっているのはデキストランベースの中圧クロマト的な精製ですけど、変わっていくと思います。今の低分子抗体の段階から進んで、有機分子とか、有機合成となると合成できるので、製造コストが大幅に低下するでしょう。カメラのフイルムなんかと同じだと思いますね。

太蔵:デジタルカメラに急激に変わりましたよね。

津本:変わったでしょう。一部の用途ではフイルムはまだ残っていますが、次の手をあらゆる方向性で模索していますね。だから、それを先取りして新しい精製技術を開発し、新しい分子が主流になってきたときに、対応できる開発力のあるところが強くなるでしょう。

知也:製薬会社にとっても大きな変化でしょうね。

津本:そうですね。そうなると、化学を捨てていない製薬会社が強くなります。化学の中にバイオを入れたのがこの10年、15年くらいで、そこから化学に戻るのですが、それで作るものって、生物学的な機能を化学で実現しようというものになります。
だから、医薬品の研究をしている人は相互作用解析をより一般的に見ようしています。これはスタンダードになるのは間違いないですね。

 

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相互作用解析の王道」について

相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。

連載記事一覧
タイトル 配信
ご挨拶 連載「相互作用解析の王道」を始めるにあたって 2009年8月
第1回 原理:其は王道を歩む基礎体力 2009年10月
第2回 実践編その1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例 2009年12月
第3回 対談:アフィニティーを測定する際の濃度測定はどうする? 2010年2月
第4回 実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1 2010年4月
第5回 実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析 2010年8月
第6回 概論:タンパク質/バイオ医薬品の品質評価における、SPR/カロリメトリーの有用性 2010年11月
第7回 抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~ 2011年5月
第8回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~相互作用の観点から~ 2011年8月
第9回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~タンパク質の構造安定性の観点から~ 2011年9月
第10回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1) 2011年10月
第11回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(2) 2011年12月
参考 用語集  
〈応用編〉連載記事一覧
タイトル 配信
第1回 抗体医薬リードのカイネティクス評価手法の実例 2012年5月
第2回 細胞表面受容体の弱く速い認識を解析する 2012年7月
第3回 SPRを用いた分子間相互作用測定における、“低”固定化量の重要性 2012年8月
第4回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(1) 2012年9月
第5回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(2) 2012年10月
第6回 「ファージライブラリによるペプチドリガンドのデザインにおける相互作用解析」 2012年11月
第7回 SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション 2012年12月
第8回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(3) 2013年2月
第9回 熱分析とタンパク質立体構造に基づくリガンド認識機構の解析 2013年3月
〈最終回〉
最終回 連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって ~3年間を振り返って、そしてこれから~ 2013年4月

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関連リンク

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東京大学 医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリー


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