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Presented by Dr. Kouhei Tsumoto
東京大学大学院
医科学研究所
津本 浩平 先生

実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1(4)

目次

  1. はじめに:抗シガトキシン抗体
  2. 低分子スクリーニングと熱量測定:序論
  3. 実験方法
  4. ITC測定による特異的相互作用を形成する化合物の同定(当ページです)
  5. リガンドの構造的特徴
  6. まとめ

4. ITC測定による特異的相互作用を形成する化合物の同定

抗体の滴下に伴って発熱反応が確認できた化合物の構造を図2に示します。

化合物の構造
図2 ITC測定により発熱反応が確認できた低分子化合物

これら3種の化合物については、いずれも抗体の滴下によって数kcal/molの発熱反応を確認することができました。得られた滴定プロファイルを図3に示します。

滴定プロファイル
図3 ITC測定により発熱反応が確認できた10C9 IgG-低分子化合物の相互作用
(A)化合物 1
(B)化合物 2

これから最小二乗法を用いて結合定数を求めたところ、いずれも105 M-1程度と10C9との明確な結合を確認することができました。化学量論比については抗体:低分子が0.2~0.3:1と算出され、10C9の1分子に対して低分子が複数結合していることが計算上で示唆されたものの、これについては親和性および測定濃度を考慮すると信頼性は低いと思われます。しかし、滴定によって明確な発熱反応が確認できたことから、10C9 IgGはこれらの低分子に対して非共有結合を形成し特異的に結合していると考えられます。この3種の化合物では、抗体滴定終了時においても平均して0.02 µcal/sec程度の発熱が認められましたが、これは滴下する抗体溶液とそれを受ける側の低分子溶液の調製に伴うDMSOのわずかな組成比の差や抗体自身の希釈熱が観察されたものと推察されます。

一方、図4には10C9との間でエンタルピー変化が確認できなかった化合物の構造を示します。

化合物の構造(2)
図4 ITC測定により発熱反応が確認できなかった低分子化合物

図4に示した化合物は、いずれも10C9の滴定開始から滴定終了時まで一定の発熱が観察されました。典型的なプロファイルを図5に示しました。

滴定プロファイル
図5 ITC測定により発熱反応が確認できなかった10C9 IgG-低分子化合物の相互作用
(A)化合物 6
(B)化合物 11

その発熱量は化合物によって異なり、-5 kcal/mol程度 から-40 kcal/mol程度のものまで確認できています。これは化合物と10C9との相互作用による発熱を観測できているという可能性も否定できませんが、上述の通り滴下する側とされる側の試料溶媒中に含まれるDMSOの組成比の差をはじめとした種々の希釈熱が反映されている可能性が高いといえます。

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相互作用解析の王道」について

相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。

連載記事一覧
タイトル 配信
ご挨拶 連載「相互作用解析の王道」を始めるにあたって 2009年8月
第1回 原理:其は王道を歩む基礎体力 2009年10月
第2回 実践編その1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例 2009年12月
第3回 対談:アフィニティーを測定する際の濃度測定はどうする? 2010年2月
第4回 実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1 2010年4月
第5回 実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析 2010年8月
第6回 概論:タンパク質/バイオ医薬品の品質評価における、SPR/カロリメトリーの有用性 2010年11月
第7回 抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~ 2011年5月
第8回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~相互作用の観点から~ 2011年8月
第9回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~タンパク質の構造安定性の観点から~ 2011年9月
第10回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1) 2011年10月
第11回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(2) 2011年12月
参考 用語集  
〈応用編〉連載記事一覧
タイトル 配信
第1回 抗体医薬リードのカイネティクス評価手法の実例 2012年5月
第2回 細胞表面受容体の弱く速い認識を解析する 2012年7月
第3回 SPRを用いた分子間相互作用測定における、“低”固定化量の重要性 2012年8月
第4回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(1) 2012年9月
第5回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(2) 2012年10月
第6回 「ファージライブラリによるペプチドリガンドのデザインにおける相互作用解析」 2012年11月
第7回 SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション 2012年12月
第8回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(3) 2013年2月
第9回 熱分析とタンパク質立体構造に基づくリガンド認識機構の解析 2013年3月
〈最終回〉
最終回 連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって ~3年間を振り返って、そしてこれから~ 2013年4月

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